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“迷走の映画監督”ガイ・リッチーが、最高傑作『コードネーム U.N.C.L.E.』をモノにした理由

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ガイ・リッチー
コードネーム U.N.C.L.E.
スパイ
小野寺系
洋画
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 『MI:5』や『キングスマン』、そして公開直前の『007 スペクター』など、2015年は次々にスパイ映画が公開され、そのどれもが異なった魅力で大きな存在感を放つ中、60年代アメリカの大ヒットTVドラマ "The Man from U.N.C.L.E." をリメイクしたスパイ映画、『コードネーム U.N.C.L.E.』も、予想をはるかに越え充実した作品に仕上がっており、他の大作に全く引けを取っていないことに驚かされる。

 『マン・オブ・スティール』でスーパーマンを演じ、ジェームズ・ボンド役の候補になったこともあるヘンリー・カヴィル、巨大な体躯に長い下まつげがかわいい『ローン・レンジャー』主演俳優アーミー・ハマーという、超絶ハンサム・ガイによるダブル主演をまとめ、彼らを魅力的に撮りあげたのが、ロバート・ダウニー・Jrとジュード・ロウのコンビによる娯楽作『シャーロック・ホームズ』を撮っている英国人監督、ガイ・リッチーだ。本作『コードネーム U.N.C.L.E.』は、監督にとっても、紆余曲折のなかで辿り着いた題材であり、かつてないベストワークであったといえるだろう。何故、ガイ・リッチー監督が、この傑作をモノにすることが出来たのか。ここではその理由を明らかにしていきたい。

キャラクターの魅力を重視した作品づくり

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 国際秘密機関に所属する、凄腕のアメリカ人スパイ、ナポレオン・ソロをはじめ、各国出身のエージェントが活躍する、『コードネーム U.N.C.L.E.』の原作TVドラマは、「007」シリーズから始まったスパイ人気の波に乗ろうとMGMテレビで制作され、最初期は「007」原作を書いたイアン・フレミングがシナリオに関わる予定であった。結局、フレミングは降板したが、そのことからも、 ドラマ作品への熱の入れようが伝わるし、「007」に近いコンセプトの企画であることが分かるだろう。『ミッション:インポッシブル』の原作であるTVドラマ「スパイ大作戦」が、工作員たちが緻密な作戦を立て、その計算が狂い窮地に立たされることでサスペンスを発生させるような、ストーリーの面白さで勝負をしているのに対し、こちらは比較的、行き当たりばったりにピンチを切り抜けていく。やはり「007」シリーズ同様、主人公たちのかっこ良さや、要所に配置される美人女優など、キャラクター重視で視聴者の心をつかむのだ。主役の、ロバート・ヴォーン演じる、ダンディーなアメリカのエージェント「ナポレオン・ソロ」、そしてデヴィッド・マッカラム演じる、ソ連出身の美貌のエージェント「イリヤ・クリヤキン」のコンビは、多くのファンを獲得し、日本でも「0011ナポレオン・ソロ」として放送され、小説版、そして複数の漫画版も出版されるなど、一大ブームを巻き起こした。

 秘密機関U.N.C.L.E. が、シリーズを通し国際犯罪組織スラッシュ(THRUSH)と戦うという内容は、初期の「007」シリーズが、やはり国際的犯罪組織「スペクター」と戦う設定であるのと同様であるとはいえ、放送当時は冷戦のさなかであり、アメリカとソ連のエージェントが協力するというドラマの内容はインパクトがある。本作『コードネーム U.N.C.L.E.』では、ナポレオン・ソロとクリヤキンが、お互いにいちいち張り合いながら、任務にあたっていくという、コメディ風の展開で観客を引っ張っていく。だから、他のスパイ映画の多くが現代に舞台を移しているのに対して、本作はその面白さを最大限に活かすために、あえて冷戦時代をそのまま扱っているのだ。ちなみに、ロシア系アメリカ人の石油王で、冷戦時代にも、アメリカとソ連を中心に大規模な貿易を行い、東西両陣営のフィクサーとして政治にも関わった曽祖父を持つアーミー・ハマーが、イリヤ・クリヤキンを演じるという今回のキャスティングは、背景を理解していると非常に面白く感じる。また、タブレットや携帯電話を利用する、現代の無粋なスパイ映画に比べ、優雅にも感じるハンドル回転式のカー・ウィンドウや、時代がかった盗聴器やレコーダーなどが画面に映り、レトロ・ポップなファッションや音楽もあいまって、このようなローテクの美しさが愛しく感じられる。

迷走の映画監督 ガイ・リッチー

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 後に『キングスマン』を監督するマシュー・ヴォーンとともに映画製作を始めたガイ・リッチー監督は、30歳で監督として、英国下層社会の淀んだ犯罪や抗争を描いた『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』、その二年後に『スナッチ』を撮った。これらは、ダニー・ボイル監督の『トレインスポッティング』がそうであるように、実験的なミュージック・クリップなどの手法を映画に持ち込み、先鋭的な映像と、スピーディで荒々しく凝った編集、異化効果を狙った意外性のある音楽の使用などで、若い世代から人気を集めた。かつて主観的な映像を駆使して世界を切り取ったヌーヴェルヴァーグが、美術史における「印象派」をなぞっていたと感じるように、新しい映画監督たちによる荒っぽく装飾過多な演出法は、「フォーヴィスム(野獣派)」に酷似しているといえよう。これは、マティスやヴラマンクなどの強烈な色彩と筆致の絵画を目の当たりにした美術批評家が、「まるで野獣のいる檻(フォーヴ)に入ったようだ」と表現したことが由来だ。ともあれ、このような野獣的演出が、ガイ・リッチーの作家性の核となっている。

     
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