“迷走の映画監督”ガイ・リッチーが、最高傑作『コードネーム U.N.C.L.E.』をモノにした理由

“迷走の映画監督”ガイ・リッチーが、最高傑作『コードネーム U.N.C.L.E.』をモノにした理由

 ガイ・リッチー監督は、撮る作品の内容によって演出法を合わせるような、万能型の映画監督ではない。そのスタイルは、ひたすら快感と軽快さを追った、表層的な空疎さが漂い、ある意味で物足りなさを感じることも確かだ。同じようにフォーヴ風の映像や編集を駆使した監督でも、例えば、トニー・スコットのような重厚なテーマや意義は希薄だし、タランティーノのようなポストモダン風の知性的なアプローチとも異なる。それは、ガイ・リッチー自身もよく理解していただろうし、それ以上の何かをつかもうと努力していたというのは、その後の映画監督としての仕事から類推できる。

 当時ガイ・リッチーの妻であったマドンナを主演に撮ったロマンス『スウェプト・アウェイ』や、内省的な犯罪映画である『リボルバー』や『ロックンローラ』など、彼自身が脚本を書き、作品を撮り続けていくなかで、彼は、作家的な「内容」を獲得するべく試行錯誤を繰り返してきた。しかし、その軽快でコミカルな演出は、テーマに重厚さや難解さを取り入れれば取り入れるほど、機能不全に陥っていくことが明らかになっていく。

 このような迷走を繰り返していたガイ・リッチーが手がけた、今までの作品の10倍以上の製作費を投じた娯楽大作『シャーロック・ホームズ』は、商業的な成功を得る。これは、『アイアンマン』で再ブレイクを果たした、ロバート・ダウニー・Jrの主演作であり、ガイ・リッチーにとっては、脚本に参加すらしていない初めての職人的な仕事として、作家的な表現を一部犠牲にしているようにも見える作品である。だが、推理小説をアクション作品にした強引な企画内容はともかくとして、このとき、彼の演出法は意外にも、単純明快な娯楽表現にフィットする部分があることが証明されたように思える。そして、ここでの純粋な娯楽性への奉仕経験が、本作の成功につながっていることは間違いない。

「外見」こそが「意味」になる世界

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 本作『コードネーム U.N.C.L.E.』では、ナポレオン・ソロが、人が燃えたり海に沈んで行ったりするのをぼんやりと眺めながらワインや音楽を楽しんだり、「しまった、私のジャケットも燃えてしまった」などと、人の死を軽視するような態度をユーモアとして描いている。このような「人でなし」の描写は、ジェームズ・ボンドにも通じる要素だ。丸腰の敵を容赦なく撃ったり、敵を殺し終えるとカフスボタンやタイを直すような「スノビズム」の魅力が、当然のように本作にも通底している。彼らのスノビズムが象徴しているのは、「表層性」の重要さである。物語やテーマなどよりも、容姿の美しさやファッション、身のこなしの優雅さ、そこで食べているトリュフのリゾットや、『ローマの休日』を模したスペイン広場の観光的描写など、通常ならば「背景」となるようなものが、むしろ意味そのものとなり得る世界だ。つまりここでは、逆に「物語」や「テーマ」の側が、スパイをかっこ良く見せる背景でしかないのである。そして本作のような、価値の転倒を許すジャンルが、映画には存在するのである。

 このようなコミック的なジャンル映画が要請するものは、ひたすらな快楽と軽快さに他ならない。そして、その資質を過不足無く持っているのは、他ならぬガイ・リッチー監督だったのである。重大な問題に向き合っている多くの映画監督たちは、どうしても何か社会的に意味のあるものを写し取ろうとするだろうし、美醜を超えた先にある世界の真実を描こうとするはずだ。そのような義務から取り残されているガイ・リッチーは、ここではとてつもない自由さを獲得しているといえるだろう。時間がかかったかもしれないが、紆余曲折の果てに、最も適した題材に、彼がとうとう巡り合えたというのは、監督にとっても、観客にとっても、まさに僥倖である。

 ヘンリー・カヴィルやアーミー・ハマー、小悪魔的なアリシア・ヴィキャンデル、悪の女王を演じるエリザベス・デビッキなど、それぞれの役者が、ケレン味あふれる演技を披露し、それが無理の無いコミカルな演出によって、テンポ良く語られていく『コードネーム U.N.C.L.E.』は、美しくきらびやかで楽しい、まさに「0011ナポレオン・ソロ」そのものの大衆的価値観を、そのまま甦らせた稀有な作品である。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

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■公開情報
『コードネーム U.N.C.L.E.』
監督:ガイ・リッチー
脚本:ガイ・リッチー&ライオネル・ウィグラム
キャスト:ヘンリー・カビル、アーミー・ハマー、アリシア・ヴィキャンデル、エリザベス・デビッキ、ジャレッド・ハリス、ヒュー・グラント
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト
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