ヤバイTシャツ屋さんはなぜ“普通歌にしないこと”を歌うのか 兵庫慎司がその作詞法を考える

 「バンドってかっこいい」と知ったのは世良公則&ツイスト、ゴダイゴ、サザンオールスターズがテレビの歌番組に出まくっていた時代だったが、いちばん好きだったのはその中でもっとも三の線であり、イロモノ・キワモノカラーが強かったサザンオールスターズだった(※「いとしのエリー」以前の話です)。

 高校生の頃は<たいやきやいた>とか<牛が乳を出す/象が乳を出す>などと歌って登場した爆風スランプに夢中になったし(初期はそういうバンドだったのです)、1stアルバムの第一声が<おもちゃが米くってちゅーちゅーちゅー>だったローザ・ルクセンブルクにもすぐさま飛びついた。有頂天や人生や筋肉少女帯や死ね死ね団などのナゴム勢も、もちろん大好物。

 というふうに、子供の頃から現在に至るまで「言葉が変なバンド」「二の線じゃないバンド」「シリアスさや熱さを避けるバンド」が好きなところが、自分にはある。そこを詳しく細かく書いていくと、それだけで相当の文字量が必要になるので自粛するが、ひとつだけ「ただし」を入れておくと、「笑える歌詞が好き」というわけではない。<すもうとりゃ 裸で風邪ひかん>と歌ったおかげ様ブラザーズにはあんまりハマれなかったし(ライブは行きましたが)、<“ヘーコキ”きましたねあなた>のMEN'S 5にはまったくのれなかった。コミックソングが聴きたいわけではないのだ。今四星球にネガティブな感情を覚えないのは、彼らがコミックバンドと名乗っていても、コミックソングはやらない、むしろ熱くて泣ける曲が主だからだと思う。

 だから、おもしろいのが好きなのもあるが、それ以上に、熱くてシリアスで二の線で、大なり小なり自分に酔わないと書けないし聴けないのがロックバンドの歌詞である、というのに抵抗があるんだと思う。そういう中にも好きなバンドはいくつもあるけど、そうじゃないやつもいてくれないと困る、そういう趣味なんだと思う。

 って、そもそもなんでこんなことを書き始めたのかというと、子供の頃からそういう趣味嗜好だった奴が、今も日本のロックを聴いているのなら、そりゃヤバイTシャツ屋さん出て来たら大好きになるでしょ。という話なのだった。

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 ヒップホップと同じくらい、いや時としてそれ以上に、徹底的に口語体な関西弁の歌詞。「喜志駅周辺なんもない」とか「ネコ飼いたい」というような脱力感満載の歌詞を、メロコア主体、ちょっとミクスチャーが入った音にのっけて曲にする。そりゃ痛快だし、「やられた!」と思うし、「これ発明だわ」と感嘆もするでしょう。

 ただし。不思議に思うところもあった。なんでそんな発明が必要だったの? つまり、なんでその音楽性、その曲調で、その歌詞なの? という話だ。

 ヤバTと時期を前後して、前述の四星球とか、キュウソネコカミとか、岡崎体育とか、大きく言えば近い作風のミュージシャンたちが、関西からいくつか出て来たが(あ、四星球は徳島か)、そこ、彼らとは異なるポイントだと思う。

 たとえば四星球は、本人たちも公言しているとおり、出自は青春パンクであり、歌詞も曲も大きく言えばその延長線上にある。「あの歌詞も?」と言われそうだが、くだらなかったり笑えたりすると同時に、熱いもの、感涙を誘うものが入っているし。

 たとえばキュウソネコカミの歌詞は、基本的には非リア充青年のデッドエンドな日常から発される本音が、おもしろかったり笑えたりする領域に達して歌になっているものであり、それはやたらヒリヒリしていて速くて激しくて、そのわりに開放感がない(そこがいい)あの音楽性と、とても合っている。

 たとえば岡崎体育は、ある種、職人的なトラックメーカーであって、1曲ずつジャンルや元ネタが異なる曲を作る。で、歌詞も、そのトラックに合うおもしろいやつを書いたり、シリアスなやつを書いたりする。だから歌詞と曲が合っている。

 で、ヤバTは? ジャンルで言うとメロコアもしくはミクスチャーである、ってことはその線の先人たち、いっぱいいますよね。どのバンドも基本、英語が多いですよね。もし日本語でかっこいいこととかそれっぽいこととか歌うのが恥ずかしいなら、英語でよくない?  なぜわざわざ日本語で、関西弁で、ネコ飼いたいとか、喜志駅周辺なんもないとか、週10ですき家に行っているとか、「そんなの普通歌にしないでしょ」と言いたくなる日常の些細なことをメロディにのっける必要があったのか。そして、なぜそれをおもしろいものにできるのか。

 もし自分で書けないなら、たとえば誰か英語が堪能な人に、ヤバTの曲に英詞を乗せてもらえば、まともにかっこいいものになるだろうし。とか思っていたら、歌詞を英語で書くこと自体をネタにした「ヤバみ」という曲を発表して、自らその道をふさいでしまったし。

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