ヤバイTシャツ屋さんはなぜ“普通歌にしないこと”を歌うのか 兵庫慎司がその作詞法を考える

 「何をムキになってあたりまえのことを書いてんだ」という気分になってきたが、でもこれ、ヤバTのライブで楽しそうに大シンガロングしているお客さんたちを見ていて、改めて気づいたことだったりする。<眠いオブザイヤー受賞 wow>と合唱している子たちはみんなその「賞を授けられそうなほど眠い時の感じ」を知っているし、<肩 have a good day>と声を張り上げている子たちはみんなその「肩幅の広い人の方が収入多い」感じに同意している、という話だ。

 このバンドにとって「自分にとっての事実しか歌にしない」というのが、「普通歌にしないような些細なことを拾い上げる」際のルールであることって、すごく重要なことだと思うのです。

 たとえば、インディー時代の人気曲で、最新アルバム『Galaxy of the Tank-Top』にも改めて収録された「メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲」を、なぜこやまたくやは書いたのか。メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲が好きだったからだ。で、曲を書いたはいいが、それ以上にこのメロディで歌いたいと強く思うことがなかったから、そのまんまになったのだ、きっと。

というように、あまりにもシンプルすぎて、回り回った解釈をされることが多いバンドだが……というか、僕もそういう解釈をしていたひとりなのだが、でも、そういう耳で改めて聴いてみると、曲調やアレンジに関しては「ここ、10-FEETっぽいな」みたいな曲も、けっこうあったりする。

 『Galaxy of the Tank-Top』収録の「Universal Serial Bus」や「ベストジーニスト賞」なんて、聴いていると「ここ亮君だろうなあ」「ここダイスケはんに歌ってほしいだろうなあ」っていう感じだし。でも、この作詞法があるから(「ベストジーニスト賞」を書いた
のはベースのしばたありぼぼだが)、「真似じゃん」「パクリじゃん」に陥らずに、ヤバイTシャツ屋さんとしてのオリジナリティを確立できている、という見方もできる。

 ともあれ。「おもしろいから」だけではなくて、そんな彼らのピュアネスがちゃんとお客に届いているから、あんなに熱く支持されているんだと思う。で、あんな大合唱が起きるんだと思う。

 ライブのたびに、「こんなに意味ない歌詞をみんなで熱く大合唱しているさま、初めて観たわ、異様だわ」と喜んでいたんだけど、何度も観ているうちに「……いや、待てよ。違う、このお客さんたち、『こんな意味ないことみんなで歌う俺らおもろい』ってだけじゃないな。感動というか、興奮というか、とにかくそれだけじゃない何かがあるな、今この場には」と考えるようになっていったのでした。で、こういう結論に辿り着いたのでした。

 あと、4年付き合った彼女との別れを歌にした「気をつけなはれや」と、大学のサークルバンドとして始まった自分たちの葛藤や本音を歌った「サークルバンドに光を」という、こやまたくやが力いっぱいシリアスな本音を吐き出した2曲が入っている、というのが、『Galaxy of the Tank-Top』の重要事項なんだけど、長くなったのでまたにします、それについては。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA NET.」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。

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