『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた(第2部)

アストルティアの都市と建築(第2部)

丹下:シナリオには語られないけど、ハクオウの桜とここの桜が同じ桜ということにしようと話したんです。ハクオウのシナリオで使ったモデルそのまんまじゃないんですけど、この桜だけ浮いちゃってもいいから「実は約束した桜なんじゃないか」と冒険者に感じてもらいたくて。100個あるうちの1つ、いつか気づいてもらえればという思いでやっています。

水谷:面白い!! 植栽のツッコミどころでいうと、明らかに広葉樹なのに幹が針葉樹の木肌っていう。

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丹下:あ、気づいちゃいましたか。今はかなり気にするようにスタッフのみんなに言っています。得てして雑になると広葉樹と針葉樹を混ぜ始めるので、混ぜないように、混ぜないように(笑)。

水谷:ランドスケープ監修の人も必要かもしれないですね(笑)。

丹下:全部自分たちでやっているので、そのまま作っちゃうこともあります。みんな資料を持ってきてそれぞれマップ作っていますから、それを監修していくみたいなことですね。

水谷:先ほどの桜の話は実際の都市の再開発に似ているかもしれない。久しぶりに行ったら、街並みが変わっているということもよくありますよね。

丹下:確かにそうですね。

小川:地味に炎は差し替えたりしてますからね。バージョン1からだいぶ表現が上がったので炎はちょこちょこ差し替えています。

水谷:建築家のザハ・ハディドは「アンビルドの女王」と言われていた時代がありました。当時の技術では不可能な構想も、本人の積み上げた設計技術の向上はもちろんのこと、現在の技術であれば可能になりました。ゲームもテクノロジーをベースにしてるから、どうしても制約がありますよね。それこそ前プロデューサーの青山公士さんが書籍で語っていましたよね。『ドラゴンクエストXを支える技術ー大規模オンラインRPGの舞台裏』(青山公士/技術評論社)で。

丹下:ゲーム内の背景のこととか、いろいろと意見を聞かれました。

小川:ゲームの技術ということで『ドラゴンクエストX』のことをまとめていますね。

水谷:では、古オーグリードの『オルセコ闘技城』へ。オーグリード大陸は比較的色も少なくて地味な印象なので記事の書き方に迷いました。現代と古代では基本的な様式は当然共通していますよね。

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小川:現代に古代オルセコ闘技場というダンジョンがあり、古代では城でした。古代オルセコ闘技場に合わせて町として作り直したものですね。

丹下:古代オルセコ闘技場はローマのコロッセオをイメージに作りました。そこに人が暮らしていたという設定なので、闘技場と町が一体化しているイメージで漆喰を塗ってみたり。

水谷:中国の円形の福建土楼の集落とか。

丹下:あの辺をイメージしています。古代オルセコ闘技場を作った時は、円形闘技場の周辺の回廊からボス・ステージが見え続けるように作りました。性能の制約があったのでやりがいがありましたね。

水谷:鉄分が多そうな赤土と石の構成ですね。現代だと装飾も少なく、色も付いていないですね。古代になると塗装を施されて色が着いている。

丹下:現在は塗装が剥げてすごく渋いですけど、日本の神社仏閣とかも元々は色が着いていた。バージョン4を作っていた頃に、ギリシャの神殿も実は白じゃなくて、石像に色が塗られていた。そのあとに引き上げた業者がその方が高く売れるからと白くしたというのをメディアで見かけて。じゃあ、自分たちもそういうのになぞろうと。

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水谷:金とか貴重なものは盗掘されるから見栄えが変わってしまっているけど、古代には栄華を誇っていた時代があったと。

丹下:そうですね。当時のメディアで見かけた後だったからすぐに反省があって。

水谷:過去になるとこういう風に。

小川:オーグリードは現代では荒れ地ですけど、昔は肥沃な大地だったのでいろいろ経済的にも豊かな時代だったんじゃないかなと。その後、戦争が続いたりとか、レイダメテスとかいろいろあったりして。

水谷:ギルガラン王子もイケメンだし(笑)。

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小川:そうですね(笑)。

水谷:(写真下)これは実際にモンスターの骨なのか石なのですか?

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丹下:これはね、一応、牙の骨です。

水谷:やっぱりそうなんですね。何かしらのモンスターの牙を?

丹下:そういう未知の生き物がいるんじゃないかと。巨大な剣とかも使うわけじゃないんですけど。これ、実はグレン城にもあるんですよ。

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水谷:えっ? この剣ですか!?

丹下:目立たないですが、あるんですよ。なので、もっと大きいものを作ってくれって(笑)。 実はグレンも技術力があるんですよ(笑)。この時のバージョンが、ドワーフはドワーフで、古代のそれぞれシナリオが用意されていたので。ウルベアでの戦争が起こるので。あれもシナリオ上、町を広大に見せるためにミニチュアみたいに町を表現しています。

小川:ドランド平原はずっと雨が降っています。他のマップだと汎用の雨なのですが、ここだけは専用の雨を降らしています。

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丹下:古代は雨が降っていたという。

水谷:資源も多そう。木材も使えそう。では、現代の『グランゼドーラ王国』へ。

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丹下:現代は平和になったグランゼドーラですが、バージョン4の古代のグランゼドーラでは、魔王軍との戦いで外敵が増えていきます。考え方としては、一の丸、二の丸、みたいな状態として。何重もの城郭で囲んで敵の侵入を防ぐというのを意識していました。現代だと外に出ても城郭はないですけど、千年前はさらに城郭があったというような形で追加して。それでより戦場らしさを出しています。制作の参考として、名古屋城に行ってみたりもしました。

水谷:名古屋城まで行ったんですか!? どのあたりが名古屋城がモチーフに?

丹下:改めて名古屋城周辺の道を歩いて、よくよく見るとお掘りになっていて、ここに城郭があったとか書いてあるんですよ。足で歩いてみると、こんなに広い範囲のお城だったのか!と。見学できるのは名古屋城の本丸の近辺なんですよ。外の町を歩くと、かなりのところまで城壁があったと驚いて。自分のイメージだと名古屋城は本丸のところだけだったんですが。

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水谷:昔のお城の全体の範囲はかなり広いですからね。グランゼドーラの町が複雑なのもそういうことなんですかね。簡単には城にたどり着けない作りになっていますね。今は旅の扉で便利になっていますけど、冒険者からすると当時はすごく行きづらかった。その代わりに町並みの楽しみがいはありました。

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©SQUARE ENIX

丹下:ここの教会は、ノートルダム大聖堂のようなゴシック建築によく見られる、外壁から屋外に張り出して空中にアーチを掛けたフライングバットレス(飛梁)を付けたかったんですけど。性能上の制約がありました。次回はフライングバットレスをちゃんと表現しようと思っています。

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水谷:ゴシックならフライングバットレスが外側に付いていてほしいですものね。

丹下:付いていてほしいですよね。やっぱりシルエットとしてもたまんないし、フライングバットレスの技術ができて広い講堂が作れるようになったというのを表現したくて。

水谷:荷重を外側に流して。でも、ちゃんと平面の十字構成というのは、現実のゴシックの教会に合わせて。民家にしてもドイツのハーフティンバーという木造の作りにしてあります。町の中央にゴシックの聖堂があるという構成になっていますね。

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丹下:そうですね。魔剣士の職業クエストの地下のBARがありますけど、あれは少し違ってブリティッシュパブをイメージして作りました。現代風ですけどね。入り口のイメージは、僕がよく通っていたブリティッシュパブをイメージして作りました(笑)。

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水谷:そうなんですか! 酒場の構造は木と石の混構造。柱は木で、上の梁とボールトは石ですね。

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丹下:バージョン2のメルサンディの地下水道も担当で、イギリスの地下水道のイメージでデザインしました。ここの酒場のデザインは新人だったのですが、地下水道のマップを見せたり、イギリスのパブの写真を見せながら作ってもらいました。最初の仕事で自信がついたと思います。

水谷:すごく作り込まれていますしね。言われないと再訪しませんでした(笑)。

小川:クエストが終わったら来ない場所ですからね。

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丹下:この酒場のひとつ前にゾーマのイベントで作ったルイーダの酒場がありますけど。六本木にあるルイーダの酒場の料理とかを再現して置いてみたり。冒険者にも結構評判が良くて。ここの酒場もですが、ルイーダの酒場もカウンターの裏側に行けるんですよ。ルイーダの酒場は後ろから話しかけるとセリフが変わるようにしてもらっています。

小川:「こっちじゃないわ」って言ってくれます。

水谷:それはドラゴンクエストの文化ですよね。店の裏から入るとセリフが変わるっていう。この調度品とかもやっぱりイギリスっぽい感じで、なんか某イギリス魔法映画っぽい。

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小川:この頃はハードの性能も向上してきたので、細かくいろいろ作り込んで。

水谷:木の質感とかもいいですね。

丹下:ルイーダの酒場は僕が作ったんですけど、テクスチャではなく、かなりモデリングで作り込みました。

水谷:あそこもテクスチャじゃないんですか!?

丹下:ルイーダの酒場は自分でデータを触ったので。イベント再演の際はぜひ見てあげてください。

水谷:グランゼドーラ城も様式混合ですよね。そもそも某夢の国が様式混合していますしね。

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編集部:モデルになっている有名なドイツのお城の……。

丹下&水谷:ノイシュバンシュタイン城。

編集部:声が揃ってる(笑)。

水谷:それとゴシックと結構様式を混ざっている。ちゃんと城郭が何重にもなっていますね。

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丹下:それは特にイメージが強かったですね。魔族との戦いが長かったことを感じてもらいたくて。城の外から地下に行けますけど、砲手による破壊を受けた時に脱出しなければならない。脱出路だから一方通行にして反対側からは入れないようにしようと考えて。冒険を通してそういったことを感じてもらいたくて。

水谷:脱出路の入り口は黒川鉄板のわりと地味な蓋で。

小川:大きさや材質でそれぞれ違う音が出るようにしています。

水谷:廊下の天井を支えているのは落盤防止のための補強ですね。

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丹下:自分もこうして見ると議論が足りていない感じですね(笑)。シナリオを読んでいろいろと話してますけどね。グランゼドーラの城の庭から入って地下牢だと脱出できないなと。シナリオを読んだ時は逆に地下牢から外に脱出できたら楽しいみたいなことを考えてたんですけど。

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水谷:海風の洞窟ですね。『ドラゴンクエストXI』でも地下牢から戦闘があって外に繋がっていますね。あれは一方通行でした。これも地下水が流れ込んでいるイメージですよね。もともとあった洞窟をさらに利用して作ったというイメージですよね。

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水谷:次は、バージョン3の『聖都エジャルナ』に行ってみましょう。

© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX

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