『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた(第1部)

アストルティアの都市と建築(第1部)

 ドラゴンクエストXの冒険者としてアストルティアの世界を8年近く冒険し続け、アストルティアの建築や都市を語ってきた、建築家の水谷元氏。「アストルティアの世界はどのようにつくられているのか?」とアストルティアの歴史や文化、建築や都市での暮らしの風景のデザインと技術について、開発部に直撃インタビュー。スクウエア・エニックス本社の開発部との直接対談で見えてきたゲーム内での建築・都市設計のフィロソフィーとは。全4部に渡る、ロングインタビューをお届けする。

第1部は「種族と大陸で異なる、アストルティア文化表現のつくり方」

 聞き手は建築家の水谷元、語り手はスクウェア・エニックスの第二開発事業本部ディヴィジョン3 デザイナーの丹下俊也氏、第二開発事業本部ディヴィジョン3 プランナーの小川裕二郎氏。『ドラゴンクエストX』のゲーム開発の裏側が分かる、直撃インタビューをお届けする。

水谷:これまでの連載記事はお2人にもご覧頂けたとのことでしたが、いかがでしたか?

小川:面白かったです。すごくしっかり見て頂いていて(笑)。

水谷:ありがとうございます。まずはお二人の経歴からお伺いしたく存じます。

丹下:僕はリーダーとして長期間『ドラゴンクエストX』に携わってきました。リリース当時、バージョン1の時代にはハードのスペックに制約がありましたが、準備期間も含め制作期間が長かったのでデザインがしっかり練られていましたね。現在も時間の経過でバージョンアップを繰り返してきており、スタッフのみんなで協力しながら制作を続けています。

 バージョン1はWiiのスペックで作っているので……例えばガートランド城の上には角が2本あるでしょ。これは当時の容量の問題で同じものを反転して表現しているんですが、シルエットとして「オーガの角だよね」と冒険者に感じてもらえるように工夫したりとか。

小川:私はバージョン3の途中から入って、今年で8年目くらいですね。

水谷:いきなり裏話がきけて嬉しいです。実際の建築でもコストの問題は付いて回ります。同じ規格の部品を極力使うとかですね。ゲームとは違うかもしれないですけど、そういった工夫はなんとなくわかります。CGにおいても建築設計の場面で依頼主にプレゼンテーションをするためにリアルに再現するところまで作ることがあります。

 その際は、CGのデータ量を小さく収めるために工夫したりします。テクスチャを工夫したり、ポリゴン数を減らしたり、時間的な効率を考えて作るとか、どこまで作り込むのかというのは普段からやってますので。

小川:凝って作っている方は本当にすごいですからね。

水谷:そうなんですよね。

小川:「あのパーツをこう使うんだ!」って開発側から見ても想像もしていなかったような使い方をしていたり。

水谷:さっそくですが、ゲーム内でもリアルな建物と知識や情報が必要な時代ですよね。建築学科の学生の中には建物が再現できたり、そもそもゲームが好きでCGを描くのがうまいから、ゲーム業界に入る人も増えているみたいです。

丹下:縮尺がリアルに作れるようになっているんですよね。

水谷:そうですよね。特に最近のゲームは本当にディティールが凄い。

丹下:幅広い機種にも対応していますし、容量の制限もあります。置けるオブジェクトも制限しないといけませんけど、建物のシルエットはちゃんと対応しなきゃいけない。実際はリアルなスケールで建物の3Dモデルを置くと本当に小さく見えちゃったりするところもあります。

水谷:あー、なるほど……。

丹下:本当にその辺りの苦労は。視覚効果を考慮した大きさでやらないといけないこともある。

水谷:特撮のジオラマでもパースを出すために奥の方は小さくしたりとか、手前の方を大きくしたりとか工夫していますよね。

丹下:その辺は実際によくやっています。特に『聖都エジャルナ』では、宮殿の3Dモデルにはパースかけています。製作時のコンピューターで見ると逆パースがかかっていてすごく歪んで見えるんですよ。例えば、期間限定の『竜王城の決戦』というものがあるんですが、あそこのボス戦の竜王城も逆パースがかかっています。ボス戦で見ると大きく見えますけど、モデルで見ると形状が違います。

水谷:なるほど。やっぱり特撮と一緒ですね。カメラの位置がここにあるから、そう見えるように表現したりとか。

丹下:そうですね。特撮は本当に参考にさせて頂いています。あと、某テーマパークはすごく参考になりますね。窓は絵だったりとか、山にはちゃんと青い色のフォグ(霧)を描いているんですよ。山麓から山頂にかけて濃淡を付けたグラデーションで巨大な感じを作っています。現実の世界でだまし絵をやっているので勉強になるなーと。ですので、ゲーム内の背景もやっていることは一緒ですよ。

dq

水谷:では、さっそくアストルティアを巡りながら、ゆっくりお話しをお伺いしていきましょうか。まずは『ドルワーム王国』にしようかな。どちらかというと要塞化されていますよね。

丹下:初期のころは準備期間として「種族それぞれに戦争の歴史がある」といった文脈も含め、しっかりと話し合いを行いました。バージョン1の頃はデザインラインを最終的に決めるまでに時間を掛けています。書籍『ドラゴンクエストX アストルティア創世記』(スクウェア・エニックス)が分かりやすいのですが、最初のアートの段階でかなり決まっていました。ご指摘の通り要塞化しているところを表現しようと。 あとドワーフ自体が特徴的な種族で機械が得意という設定を生かしています。

dq

水谷:これは古代の南米っぽさを意識していますよね。

丹下:はい、意識しています。

水谷:僕らがメディアなどを通して日常的に触れる文化や歴史みたいなものから、種族の特徴と合うものを選択してゲームへの没入感を高めることを意識していますか?

丹下:僕はバージョン1の発売の2年前からチームに参加していろいろと研究しました。僕の場合、ドラゴンクエストの世界はヨーロッパのイメージです。なので、ちゃんとギリシャやロマネスクなどから作り込んでいこうとなりますよね。それが今でも面白いと思っているんですが、今回は5種族いるのでそれをやってしまうと世界観が狭まってしまうデメリットもあり……今回は各種族の特色をだすことを優先したいというオーダーを踏まえて、ヨーロッパのことは一旦無視してそれぞれの「らしさ」を追求しようと決定しました。鳥山明先生が最初に描いてくれたドワーフのイメージが超文明でした。超文明といえば自分たちなりにインカ帝国とかをイメージするので、そういったものを形にしました。

水谷:ドワーフのNPCの服装もそうですよね。丹下さんが「ドラクエのイメージはヨーロッパ」と言われて改めて思いました。

dq

丹下:この頃はNPCの服装と背景のほうも合わせて構成しようと。アストルティアの世界がゲームのベースになるので、まずはそこをしっかり作ろうと。結果こういうデザインになりました。

水谷:『ドラゴンクエストIII』から「お、なんかジパングが出てきた!」とかはありますけど、基本的には中世ヨーロッパの世界観が中心ですよね。やっぱり剣と盾の世界だよね、と。だけど、五大陸で広がりを見せるとなると、建築にも当然影響が出てきますよね。

丹下:僕は30年くらいゲーム作りをやっていますが、最初のきっかけが難しかったです。頭でっかちにやっちゃうと世界観が狭まっていくんですよね。かといって無作為に面白いだけでやっていっちゃうと収集がつかなくなってしまう。その辺りをどう世界観としてまとめていけばいいのか難しいところでしたね。

水谷:インカ帝国だという話があったので。僕は記事を書く時に「じゃあ、現実に建築するときってどういう風になるんだろう?」みたいなことを考えるんですけど。石材は石そのものの色じゃなくて塗装を施しているというイメージですか?

dq

丹下:そうですね。そういうイメージです。

水谷:今、気になったのは窓があるところとないところがあることです。

dq

dq

丹下:ドワーフは超文明なので電気ではないですが、(窓がなくても)明かりを保てる技術を持っていると考えています。岳都ガタラは庶民的な町なので窓で採光しています。ドルワーム王国の方はドゥラの研究室があるので。

水谷:城郭から町の内側に流れ込んでいる砂というのは何か?

dq

丹下:ドルワーム王国は水が豊かではないので流砂的なもので演出しています。ガテリア皇国で砂防ダムみたいなものを作っていたと思うのですが、ドルワーム王国の方は放っておくと自分の世界が埋もれていっちゃう文明と設定しています。なので、その砂を逃す技術を持っているという風に考えています。

水谷:装飾もすごいですよね、こんな装飾的な土木は現実では世界中探してもなかなかない。建築だとあるけど。土木ですものね、これは。

丹下:もちろん、土木のことも考えてデザインしていますよ。生活のことは必ず考えていて、最低限の水をここで調達しているとか。例えばシナリオ上の設定にはなくても、いかにそこに命を吹き込むかということを僕たちは考えています。

 町に城がある時は大きなフレームでシナリオが設定されてきますが、「その城をどんな風にしようか」というのはまた別の話です。インフラに関しては僕たちがレベルデザインをする際に「この種族がどう生活しているのか」というのを想像しながら作っています。どのゲームでも昔からやってきました。

水谷:『ドルワーム水晶宮』も見ておきたいですね。この建築の中に庭があるという。僕からすると、とても現代建築っぽい印象です。

dq

丹下:そうですね、ドルワーム王国は砂漠なのに内部に庭園のようなものを作れる技術を持っていると設定しています。王の謁見室の前に水晶宮を見せる。ここに他の国の人が来たときに、ドルワームの超技術を見てもらうという意図ですね。小さなドワーフたちだけど、「俺たちは作れるんだぞ!」というようなね(笑)。宙に浮いている階段とかはもっと作り込みたかったんですけど。

dq

水谷:国家や文明の高さを誇示するのに建築が活用されてきた歴史は現実世界でも確かにあります。

丹下:あとは『ウルベア地下遺跡』ですね。そこは僕が当時担当していました。やはり過去と現在の違いというのでしょうか。滅びてしまった古代ウルベア帝国を想像しながら作りました。シナリオ上の細かい指定がなかったので、超文明なら壁を壊すと中に歯車入っているようにしたりとか。最後にウルベア魔神兵と戦うじゃないですか。あの時に最後の部屋だけが起動する。そこにある全部の歯車が動き始めるというのは、こちらで考えました。

水谷:その辺りの設定はシナリオとしてあるので、大事にされていたんですか?

丹下:はい、大事にしています。この先にシナリオで触れられるかもしれないので、できるかぎり世界観を広げるようにしています。世界を広げるためには土台が大事ですから。そこは少しでもリアリティーを持たせて、生活している環境を作り込みたいという思いはすごくありますね。

 たとえば、最初は歯車が無かったんです。ただ、それだと超文明っぽくなかったので何かできないかと考えた時に、「そっか、どうせ崩れるんだったら……そうだ、歯車だ」と思いつきました。ダンジョン内では動いてないのですが、ボス部屋では歯車を動かしています。

dq

水谷:まあ、滅びたものだから他の場所は止まっているけど……。

丹下:ドルワーム王国の方は昔の超文明が発展したというイメージでデザインしているのですが、ウルベア地下帝国は割と機械式のものが発展したというイメージを付けました。

 あと、当時サービスしていた機種だと丸いものを動かすのが実は難しかったので挑戦したかったんです!

水谷:技術力ですよね、それも(笑)。次はプレイヤーならみんなお世話になっているリーネのいる『ヴェリナード城下町』にいきましょうか。どこの町も要塞化しているというのは、歴史もあるけど、基本的には外にモンスターがいるからですか?

dq

丹下:そうですね。基本は要塞として設定されています。

水谷:実は……必ず記事で毎回城郭に触れるようにしているので、マンネリにならないかと心配していました。でも、城郭の作り方にそれぞれ特徴がありますよね。ヴェリナードは色調が白だったり、オーダーの柱があったり、ギリシャのイメージです。

dq

丹下:歴史がある都市はギリシャにしようとか、ロマネスクにしようとか、そういう話をやっていました。

水谷:そうか。その時はまだ将来的な内容までは決まっていないから、意匠が被ることを考えなくていいんですね。

丹下:そうですね、被らないので。種族ごとの特徴を出しながら時代設定も考えてやろうとしていました。特にウェディは過去の歌姫の話がありますから、歌姫の衣装も時代にあったデザインにしたりしていて、かなり気を使って作っています。

dq

水谷:バージョン6が出る時に「ヴェリナードはちょっと雰囲気が変わっちゃうよね」みたいな議論はあったのですか?

丹下:なりました(笑)。ネタはいろいろあるのですが、『ドラゴンクエストX』は長く続いているので、捉われないでキャラクター性を追求しようという形になって。バージョン6のリナーシェの衣装には古さを感じませんよね。

 文化的背景をデザインとして組み込むこともあります。バージョン1は生活感を出すという感じだったのが、バージョン3あたりから制作方式が変わってきました。シナリオを楽しんで頂きたいという思いでデータの作りがオフラインに近くなってきました。

 また、バージョン1は見えている場所は極力行けるようにしていました。例えば、実際に遠いところはスケールを正しく描いてリアルに距離がありました。バージョン3以降はモデルにパースをかけたり、大きさを変えたり、シナリオを重視した演出を優先しています。

水谷:そういえば、旅の扉が町中にできた時は少し寂しかったですね。以前は町並みを眺めながら移動する楽しみがありましたから。

小川:旅の扉自体も存在感が結構強いですよね。景観という意味ではちょっと……というところもあるかもしれません。

dq

水谷:バージョン7からは町を走る時のスピードも速くなりましたね。

丹下:バージョン1は見えている場所は全て原寸サイズで作っているので、行けない場所も手を入れば移動できるようになっております。

dq

水谷:ガタラの展望台から見える町も原寸なんですか?

丹下:簡略化したものですが、原寸です。実は崖の高さも原寸の高さです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

blueprint book store

もっとみる