『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた(第3部)

アストルティアの都市と建築(第3部)

 ドラゴンクエストXの冒険者としてアストルティアの世界を8年近く冒険し続けきた建築家の水谷元氏。長らくプレイしてきたユーザー&建築家の視点から開発に携わったスクウェア・エニックスの担当者に直撃する4部作のインタビュー企画。第2部ではハードや技術面の進化でどのように都市や建築の描き方が変化してきたのか、またユーザーでも気付かないうちに「再開発」される事実を知ることに。第3部では都市構造や景観を左右する、その場所で暮らす種族との関わり方について聞いてみた。

第3回:シナリオを重視した暮らしの風景とおおぞらをとぶ挑戦

聞き手は建築家の水谷元、語り手はスクウェア・エニックスの第二開発事業本部ディヴィジョン3 デザイナーの丹下俊也氏、第二開発事業本部ディヴィジョン3 プランナーの小川裕二郎氏。『ドラゴンクエストX』のゲーム開発の裏側が分かる、直撃インタビューをお届けする。

水谷:次はバージョン3の『聖都エジャルナ』です。

丹下:バージョン1とバージョン2のお城や町は一体化したマップみたいなのを目指していました。城や町の中に入ったらしっかり向こうまで見渡せるようになっています。バージョン3ではシナリオを重視して、建物や窓が見えるけど行けない場所があったり、実際のモデリング以上に広く見せるように工夫しました。城の前の階段はすごく長い階段のように見えるけど、実際はモデリングでパースをかけています。

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水谷:実際のデータはすごい急階段になっている(笑)。丹下:遠くまで続いているように見せたかったんですよ。実際は階段の手前まで来ると城の中にジャンプしちゃう。バージョン1の頃のモデリングデータの階段は登れるように作っています。

水谷:こんな急な階段、オルストフのおじいちゃんじゃ登れないだろっていう階段(笑)。

丹下:パッとジャンプしちゃうので(笑)。人が暮らしている気配を感じてもらうために向こうに見えている家屋の窓には明かりが点いています。バージョン3からはシナリオを重視していたので、階段や建物の大きさ、人が暮らしている気配を表現するためにやっています。

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水谷:過去のバージョンだったら基本的に見えている人とか場所は行けるようになっていますものね。

丹下:そうですね。バージョン4からはシナリオに集中できるように意識して作り始めました。

水谷:でも、絵としては印象に残りますね。周辺を眺めて見るとエジャルナも地下なのでしょうね。掘り込んでいる。というか、もともと山だった?

丹下:あ、そうです。この街道の東と西の中間点を作るというのが目的です。

水谷:町の意匠は竜のイメージから決めていったのですか? 竜の肌や鱗の模様がモチーフですよね。

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丹下:アペカ村からもそうですけど、 竜の鱗の模様をイメージしています。

水谷:現実のヨーロッパじゃなくて、 どっちかというとヨーロッパのおとぎ話に出てくるような。

丹下:そうです。そういえば、サウナがあるんです。

水谷:サウナ?

丹下:最初は地熱でサウナというイメージがあって…今は違うものになっています(笑)。アペカ村もそうですけど、生活動線をイメージしながらマップや街路をデザインしていますね。サウナも冒険者は利用できないんだけど、暮らしの気配を感じてもらうためにエジャルナで暮らしている人たちはボディサウナの公衆浴場として利用するだろうと。

小川:今「え、嘘? あ、サウナなんかあったっけ?」って思って聞いていました(笑)。

丹下:これです! もともとサウナとして作ったのにクエストマークが付いちゃったから、まったくサウナが生きてない。ちゃんとスチームを出しています(笑)

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水谷:めっちゃスチームが出ている。

丹下:作ったらクエストを受けるのに広さがちょうどいいって言われて。「これはサウナだよ!」って言ったけど「いいじゃん」って言われて揉めた覚えが……。

水谷:これはサウナだ! グラフィックとしてちゃんと表現されているから言ってもいいんじゃないですか? 「あれはサウナなんです!」って(笑)。

丹下:そう、これはサウナです!

小川:熱い蒸気が出ているはずなのに普通にNPCがしゃべってる(笑)。

水谷:ここに冒険者に座ってもらって、後ろで熱波師もやってもらって……。

丹下:拾ってもらえる場合と拾ってもらえない場合がありますから。拾ってもらえるとそれがまたクエストに広がっていくことが多いのですが、ここは拾ってもらえなかった(笑)。

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水谷:ちなみに、この通路の床のイメージは?

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丹下:下に温水が流れていて循環させて使っているイメージです。くるくるとファンが道の下で回っているところに温水が流れているイメージですね。アペカ村は水が乏しいイメージですけど、ここは首都なので、地熱を利用して清浄機で戻した水を利用しているというような裏設定を考えながら組み合わせました。で、その上でのサウナだったんですよ。次は嵐の領界の『ムストの町』はどうですか?

水谷:まずは地上から。僕は完全に空から少女が降ってくる有名アニメ映画のイメージという認識ですね。

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丹下:風車は明らかに何かしら目的がある感じがしますね。それこそ水を吸い上げるとか、穀物を製粉するとか。風速計の用途もあるのかな。

丹下:嵐の領界という名前が最初に考えられるんですけど、 当時は風を表現するのが難しかったので大きい風車をデザインして回そうと。風を少しでも感じるようにしてみました。バージョン6では、さらにエフェクトを入れた風の表現に繋がっていきました。

水谷:バージョン3は竜というテーマから現実の世界にあるモチーフというよりも、ファンタジーや漫画やアニメだったんですか?

小川:各属性のある領界というテーマだったので「嵐の領界だったら風と雷だよね」と。嵐の領界は2つフィールドがあるけど、最初はどっちも似たようなイメージになっちゃったんですね。ナドラガンドは荒廃して苦しんでいるみたいなところなので、東側のフィールドは西側と差別化するために毒の風を吹かせました西側は雷で、東側は毒といったようにしています。

丹下:バージョン3まではWiiに対応していたので当時の技術の限界を攻めようと。

水谷:共通して牙とか鱗のモチーフは。

丹下:全領界で共通していますね。

水谷:地下は何か地下空洞の再利用ですか?

小川:鉱山として使われていた場所の再利用という設定です。トロッコの線路がずっと外まで続いていて、天ツ風の原に地下で通じています。

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水谷:この辺は例の天空の城のアニメ映画のイメージですよね。

小川:天ツ風の原は地上と地下が繋がって地下から回り込まないといけない場所などを作っています。

水谷:逆はいけないんですか?

小川:宝箱の反応があるけど取れない、どこから行けるんだろう? みたいな。ドラゴンクエストにありがちなんですけど(笑)。

水谷:これは鉄骨階段だとすると、なかなか作るのが難しそうですね…あっ、トロッコのレールを流用しているとか。

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小川:レールを流用してそこに板だけ置いて…廃材を利用したように感じを出してます。

水谷:ここの酒場には来たことないな。

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小川:アクセスが悪いですからね。

水谷:こんな状況になっても、みんなでお酒は飲みたいんだっていう。実際の地震の時に避難所で居酒屋をやるという報道を見ました。大変な状況でも、みんなとコミュニケーションができる、緊張をほぐすというのは大切ですね。

丹下:バージョン6のアラモンドも廃材を利用した特殊な技術を使って作ったようなイメージです。ここはその練習になっています。冒険者には似ていることにあまり気づいてもらえません。

水谷:『魔窟アラモンド』に行ってみましょう。この埃のエフェクトも綺麗ですね。この辺のグラフィティーみたいなのが、ちょっと不良感。

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丹下:そういうイメージですよね。プクリポなので可愛くやろうとこだわって作り込んでいます。

水谷:オブジェクトもすごいですよね、このドルボードは同じのを持ってる。暴走族がたまっているんですよね、ここに。

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小川:チキンレースもやりましたね。

水谷:つい最近のことなのにすでに懐かしい。オブジェクトをたくさん入れられるっていうのは容量の制約だったんですか?

丹下:容量ですね、複雑に曲がった形状のモデリングも。ストローが刺さったかき混ぜて作るジュースとかも表現していて、オブジェクトを作り込むと冒険者が喜んでくれます。

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水谷:そうですよね。新しいバージョンの食べ物ばっかり撮ってる人とかいますよね、それをSNSにあげる人。こんなものを食べてるとか。アストルティア文字を読む人もいますね。でも、世界観を作り込む作業は必要な作業ですよね。

丹下:プクリポは縛られないように楽しんでいて。バージョン4では宇宙船ですし。なんでもありにしてみるというか。

小川:何やってもプクリポっぽくなるんだなっていう。

水谷:他の種族は実際の神話にも登場しますが、プクリポは『ドラゴンクエストX』のオリジナルの種族ですね。キャラがプクリポなのでヒイキしたところもあるのですが、『ドラゴンクエストX』らしいものを1回目の記事にしないといけないなと思って、最初の記事はオルフェアにしました。

丹下:宿屋は虫が這っていたりとか。プクリポはノミがいたら痒そうって冒険者に言わせたいなと思って(笑)。

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