現実から仮想まで。建築家・水谷元と巡る建築探訪記 【第6回】
『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた(第2部)
ドラゴンクエストXの冒険者としてアストルティアの世界を8年近く冒険し続けきた建築家の水谷元氏。長らくプレイしてきたユーザー&建築家の視点から開発に携わったスクウェア・エニックスの担当者に直撃する4部作のインタビュー企画。第1部では都市建築や景観(ランドスケープ)の裏側などについて聞いてみた。第2部ではハードや技術面の進化でどのように描き方が変わったのかを深堀りしていく。
第2部 ハードの制約と工夫、アストルティアの歴史体験のつくり方
聞き手は建築家の水谷元、語り手はスクウェア・エニックスの第二開発事業本部ディヴィジョン3 デザイナーの丹下俊也氏、第二開発事業本部ディヴィジョン3 プランナーの小川裕二郎氏。『ドラゴンクエストX』のゲーム開発の裏側が分かる、直撃インタビューをお届けする。
水谷:「キラキラ大風車」のテントは実際に透過しているのではなく、テクスチャで描いているんですね。本当に絵画表現と同じですね。
丹下:透過した奥に棚があるように見えますが、これはテクスチャです。夜のテントは透過したような表現ができればと思って作りました。結局、アストルティアの夜のテントの表現はすべてこれになりました。
水谷:裏にうっすらスライムがいる(笑)。
丹下:大陸間鉄道ではないんですけど、外壁に鉄道を走らせてテーマパークのオモチャっぽくてしたりとか。
水谷:本当だ。知らなかった。大陸間鉄道じゃないんだ!
小川:ここに駅は無いですからね。
丹下:鉄道模型を走らせています。エパト王の銅像がありますけど、楽しい王様だったという設定なので、こういうところにも遊びがあるよね、と。
水谷:いつか乗れるようにしてください。ただくるくる一周回るだけで(笑)
一同:(笑)。
水谷:キラキラ大風車の基壇の下はガウディっぽいですね。
丹下:ガウディも自然のものをモチーフしていたので。表面のテクスチャは漆喰の下にレンガの下地が見えるように工夫しています。
水谷:レンガの目地がちょっと見えているような。面白いですね。では、キラキラ大風車の中に入ってみます。
丹下:実際はテクスチャですけど、高級感を出すために光るところを限定させながら立体に見えるように。ホテルのような豪華な照明をすごく意識しました。
水谷:確かに装飾にすごい高級感ありますよね。
丹下:内部は高級な石を柱に使っているイメージです。宿屋のカウンターは「プクリポBAR」という名前だけ設定にあったので勝手に作っちゃいました(笑)。
水谷:削り出しの石柱、コンクリートかな?
丹下:キラッと輝いて見えるタイルの表現もこだわって作っているので見てもらいたいです。
水谷:あらためてこの記事でみんなに見に来てもらいましょう。僕も言われなかったら気づかなかった。
丹下:あと、歯車のようなプロペラをくるくると動かしたら面白いんじゃないかとか。上でクルクルと回っている。ガウディみたいなアーチ、ライティング、動きのある背景、それぞれ当時の技術では難しいところでしたが、限界に挑みたかった。
水谷:面白いですね、技術力と工夫が架空の建築の構造や表現に影響を与えているわけですね。これを読んだらきっとまたキラキラ大風車を見に来たくなりますね。
丹下:(画面下の)ここにある模様とかですね。
水谷:確かにこの金属感とか。ライティングの反射で表現しているわけじゃないんですね。
丹下:割と原始的な技術ですが、反射しているように見えるだけでテクスチャで表現しています。プランターの植木もくるくると飛んでいるものがありますけど「ひとつぐらい飛んでいてもいいじゃない?」って飛ばしたのを作っていたら企画が拾ってくれて、「クルクルトビトビ 通称:プロペラ草」と名前も付けてくれて(笑)。
水谷:最上階は高級なサンルームのイメージですね。
丹下:当時の環境ではガラスの表現が難しかったので、あえて挑戦しようと。一枚一枚の屈折率をうまく変えて、カメラを回すとキラキラと輝いて見えるように。白く見えるような部分を一部作ったりとか、厚みがあるように見えるように。
水谷:サッシの装飾はアールヌーボーのステンドグラスなどを参考にされたんですか。
丹下:そのあたりを参考資料として積極的に使いました。
水谷:冒険者のみんなが名前を知らなくても見たことがあるような既視感みたいなのがあると、没入感を出しやすいですね。
丹下:一旦、ドラゴンクエストの世界に合うように調整しつつ、例えば列柱を繰り返して設置したり工夫しながらやっています。それは今でも変わっていないです。
水谷:次は『王都カミハルムイ』に行ってみましょう。僕ずっと気になっていたんですけど、カミハルムイは日本人としては一番親しみやすい和風の町なのに、あまり冒険者が集まりやすい構成になっていないというか、あっ、やってましたね……サメ列車(笑)。
小川:サメの浮き輪を装備してみんなで列になって歩くという(笑)。
丹下:冒険者のみなさんがすごく気に入って使ってやってくれて(笑)。
小川:あのサメのインパクトがミーム的にすごく流行ったというか(笑)。
丹下:一応、冒険者が集まるであろうというようなことは考えていて……。
小川:酒場は集会で使われたりしていますよね。
丹下:やっぱり城は本丸派なので大都市として設計しました。集中した人をサーバーに分散できることを計算して南と北に分けて作り込んだら、使い勝手が悪くなってあまり集まらなかったみたいな(笑)。
水谷:現実の都市の構成だと、お祭りやパレードなどイベントが開催しやすい構成に設計しています。カミハルムイは動線の長さのせいでしょうか。どうしてもお店とお店が遠くなってしまうというか。賑わいがあればカミハルムイもすごく雰囲気いいだろうなといつも思います。
丹下:たまにプレイヤーイベントで「サーバーが分散できて人数が増えても大丈夫だから」と使ってもらったりしているようです。
水谷:テンの日に和風コーデのイベントを行うのも、すごく良さそうな気がします。職人ギルドに締め縄があるというのは職人の工場(こうば)は聖域だからですよね。ものづくりや道具や素材の神様が宿っているというイメージです。
丹下:当時のディレクターから「ドラゴンクエストの世界だから日本やヨーロッパらしくし過ぎないでくれ」とオーダーとしてありました。現実に近すぎない不思議な感じが出たかなと思っています。
水谷:なかなかいい柱を使っていますね。建築に使われる素材ってどこから持ってきているというような設定はありますか? 現実の建築の世界だと地域独特の素材や装飾は文脈として大事です。ドワーフの場合だと石工の技術も発達しているだろうなとか。
小川:エルトナ大陸の場合はモリナラ大森林や久遠の森など森が多いですから、そこから。
水谷:今度の『風の町アズラン』の記事でも書いていますが、木製の柱を支える束石がなくて、そのまま地面に土台がのっているとすぐ痛むだろうな、なんて思っていまして(笑)。
丹下:勉強させてもらいます(笑)。お正月のイベントで日の出を見る会場の樹木は綺麗なんですけど。一昨年くらいから、本丸にある桜の木はポリゴン数を増やして豪華にしました。
水谷:本当だ! これはいつ新しくなったんですか? バージョン6くらいですか?