『ドラゴンクエストX』好きの建築家が「岳都ガタラ」と建築について本気で考察してみた

建築家が「岳都ガタラ」を考察してみた

 現実、仮想を問わず建造物という存在は空間を構成する大きな要素となっている。例えば現実における「駅」や「ビル」はランドマークともなり、そこを起点とした人々の営みなども生じ、都市空間を彩ってくれる。ゲームやアニメ、映画でも建築物がストーリーを語る上で、あるいはプレイヤーが没入するのになくてはならない要素となる。現役建築家が現実、仮想の建造物や都市空間について語っていこう。

 今回は五種族の中の「ドワーフ」が暮らす「ドワチャッカ大陸」に位置する「岳都ガタラ」をご紹介する。岳都ガタラは、主人公の転生種族としてドワーフを選択した場合に、2つ目に訪れる街である。ドワチャッカ大陸は、砂漠があったり、山岳が火山があったりと、比較的緑の少ない大陸である。

©SQUARE ENIX

 地図では分かりにくいが、地図で示すと左側から上側にかけて崖に面しており、右側から下側にかけて城壁に覆われた街である。大きな広場を中心に左側には大陸横断鉄道の駅が設置され、右側には街の出入口が設置されている。

 もしかすると元々あった峡谷を利用して街を開発したのではなく、岩山を削って街を開発し、その周りを防御壁で囲ったのかもしれない。魔物に襲われないための計画なのか、防御壁はまるで城郭都市の様相である。防御壁に囲まれているので街の中では気づくことができないが、出入口の石段を見るとかなり高い丘の上に街が計画されていることがわかる。

 門扉は設置されていないが街の中央広場に通ずる階段にも分厚くて高い壁が建っている。壁は意匠的にも手抜きがなく、ドワーフ独特の彫刻と装飾で飾られている。石材の種類は限られているので、色のついた石はおそらく顔料で着色されているのだろう。分厚くて高い壁はどこにいても目についてしまう。もしも、これらの壁が無骨なものならば街は物々しい雰囲気になっていただろう。色とりどりの装飾で飾られたこれらの壁は、ドワーフの豪快で陽気な気質と暮らしを支える工夫なのかもしれない。

 岳都ガタラには展望台が設置されており、中央の広場からアプローチすることができる。展望台へのアプローチする門もかなり豪華。城門を彷彿とさせる門の向こうには何があるのかと期待させるが.......。

 門を抜け階段を上り、おそらく岩山を掘って石材で丁寧に補強・装飾されたトンネルを抜けると、採掘ギルドが設置された大きな広場に出る。

 採掘ギルドは石を積み上げて建設されているのかと思いきや、よく見ると木材で補強されている。

 内部に入るとなんと岩山に掘られた大きな空間になっている。大きな空間の周囲は落盤しないように木材で補強されている。よく見れば奥には扉が見える。中心には巨大な鉱石が飾られているので、かつては鉱石を発掘するための拠点だったのかもしれない。
 先ほど外観で確認された木材の補強も岩山を削った後の補強で、本体は石材で建設された建物ではなく、石材はただの装飾なのかもしれない。岩山を削って造られた建造物は現実世界では、エジプトのアブ・シンベル神殿などが有名である。

©SQUARE ENIX

 採掘ギルドのある広場からさらに丘を上ると岳都ガタラの展望台がある。現実世界ならば、その道のりに根を上げそうな道のりである。

 展望台の入り口までたどり着くと、さらに過酷な試練が来訪者を待ち受けている。広角レンズにも納まりきれないような崖に設置された梯子である。普通なら恐ろしくて登る気にならない。

 上りきるとガタラ湖を一望できる展望台にやっと辿り着く。ここは年末年始のカウントダウンやドラゴンクエスト10の周年イベントなどが開催される場所で、毎度賑わう場所でもある。展望台の簡素な柵から下を眺めると岳都ガタラの構成が俯瞰的によくわかる。何重にも囲われた防御壁、基壇上に構築された街の構成、展望台までへの困難で複雑なルートは、魔物に襲われた時の住民の避難を考えての事かもしれない。もしかすると、種族間や同種族との戦争など、悲しい歴史があるのかもしれない。

 街に戻ろう。街の中にある建物は丁寧に切り出された石材で建造された組積造である。組積造の建物は柱や梁で構成された木造や鉄骨の建物とは異なり、積まれた壁で構成されているので構造上どうしても開口部(窓や出入口)が小さくなってしまう。

 窓が小さくなってしまうということは、窓から採光を取ることが難しくなる。内部に入ると梁より上の天井の脇にハイサイドライトが設けてあり、日中でも採光を取り入れる工夫がされている。組積された石の上には水平方向の体力を維持するための梁や桁が設けられているが、おそらくこれはコンクリートだろう。さすがにこの長さの石材を掘り出して加工し、搬入・設置するのは難しいはず。建物が水平方向に歪まないようにするために桁と梁の間には斜めの部材(火打梁)までしっかり設けられている。火山のあるドワチャッカ大陸では火山系地震が多いはずである。仕事が丁寧で関心する。さすが手仕事や工業に定評のあるドワーフである。家具や調度品まで石、石、石。ベッドも石、風呂も石。熱吸収の効果ですぐに冷めそうである、冷たそう。

 民家にはツルハシやヘルメット、工具が揃っている。家具や建物のメンテナンスにいつでも使えるように用意されているのか、こちらの住人が石材関係に従事されているのかもしれない。

 岳都ガタラの中央広場には現実社会でも社会問題になっているゴミ屋敷がある。住民の憩いの場に迷惑な話ではあるが、ここには全バージョンを通して活躍する重要なドワーフが暮らしている。自分勝手で迷惑な男ではあるが、根は良い男である。

 積んだゴミ…...失礼。コレクションが落下して街の住民が怪我をしないように丁寧にロープで固定され、地面との設置面にはきちんと杭が打ち込まれていた。

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