連載「Performing beyond The Verse」(第2回:往来・ぴちきょ×PONYO)
需要と供給のバランス、経済活動へのハードル……キーパーソンたちが考える“メタバース全体の課題”
“内側”と“外側”のはざまでーーコンテンツ作りに「冷静な視点」は必須か否か
――『VRChat』に入り続けて、内側にあるコミュニティの活動を見ていると、「盛り上がっている!」と思う反面、ちゃんと客観視できないとドツボにハマるなとも感じますね。冷静な目で見れなくなるというか。お二人は「冷静な視点」をどうキープしているのか、ちょっと気になりました。
ぴちきょ:私は年齢相応の人生経験があって、その中で様々な業界を見てきたことが役立っているかもしれません。たとえば、スマホアクセサリーなどのものづくりに携わってきた中で、知り合った方々。スタートアップ界隈やITビジネス界隈など、交友関係がもともと広いんです。
で、コロナ禍によってリアルの交流が減ったときに『VRChat』に深く入り込んでいったんです。けれど、コロナ禍が明けて多くの人がもとの日常へと戻るのと同様に、自分ももともと好きだった海外展示会の視察や商談に年に数回海外へ行く生活に戻りました。リアルの打ち合わせや会食などの機会も増え、外との付き合いが戻ってきています。
そのうえで、自分の生活の中のひとつにVRや『VRChat』が組み込まれています。なので、自然に外の目を持ちながら、ツールのひとつとして『VRChat』を使えているのかなとは感じています。
PONYO:僕は真逆の話になりますが、そもそも外の目を全然気にしていないんです。『VRChat』の中にいる人が楽しんでいることしか頭にないですね。『VRChat』の人たちが何を考え、日々どんなことをして過ごしていて、何をしたら喜んでくれるのか、そこだけを考えています。
もちろん、世間に浸透してくれたらいいなと思いますが、たまたま世間の関心が『VRChat』の中でウケているものに向けばいいとも思っていて、バーチャルの文化を広げる人間が、かならずしも僕である必要はない、という割り切りの上でやっていますね。
――内側の熱をどんどん高め続ける立場にいる、ということでしょうか?
PONYO:というより、いつか世間から『VRChat』内のコンテンツが注目されたときに、そのコンテンツを作ってきた人みたいな立場にいられればいいかな、という感覚ですね。
たとえば、百貨店や路面店で商品を買うことと、ネットショップで物を買うことって、全然別じゃないですか。 全く別のノウハウを用いて、別の客層に対してアピールをして、商売を成り立たせている。そして昔はリアル販路一強で、ネットショップなんて物好きしか使わないものと思われていたけど、今では文化としても根付いて、当たり前のように使われるじゃないですか。
『VRChat』もその状態だと思っていて。この先どうなるかわからないですが、いつか一般の人と交わる段階になって、そのように思ってもらえればいいのかなと。
――「わしが育てた」的な(笑)。
PONYO:そこまでは言わないですけど(笑)。でも、僕は実際に15年くらい前にネットショップの事業をやっていたんですが、当時「世の中にネットショップが浸透するまでの歴史」を目の当たりにしてきたので、そこにシンパシーを感じているというか、あの時の再来な気がする、という気持ちがありますね。
――なるほど。「いつかどこかで交わるだろう」みたいな感覚は、そういう経験から抱いているのですね。
PONYO:でもまぁ正直、交わらなくてもいいかな、みたいなところもあって。
ぴちきょ:お話を聞いていると、「貴族の遊び」のようにも(笑)。
PONYO:いやいや、違います(笑)。メタバースという流行を生み出すのは、MetaやAppleのような、最前線のデバイスを提供している側であり、僕らのようなコンテンツを提供する側ではないと思っているだけなんです。
ぴちきょ:あっ、私はデバイス側ではなくコンテンツ側だと思ってました。だからこそ、中の人のパワーが大事だとも思うんですよ。ただ、大事なんだけれども、外からの視点を失うと、ずれた方向に広がっていっちゃうんですよね。なので両方の視点が必要で、かつ自分は事業者なので、企業側に視点が近い。より外の目を意識しないと、両方とも不幸になると思っています。
でも、これもどちらがいいって話じゃなくて、中のことだけを考えて突き詰めるからこそ、珠玉のコンテンツが生まれるってこともあるんですよね。なので自分たちは、そうした人たちをどうやって外に伝えて、紹介していくか、チャンスの場を作るか、努力するべきだなと思います。VR担当の慈善事業ではない以上、拡大していくしかないんですよね。
PONYO:僕はコンテンツを作る人と、コンテンツを広げる人っていうのは、全く別の存在だと思っています。そして僕はコンテンツを作りたい側です。そして、作ったものを誰かに広めてほしいんですけど、「広めたい」と思わせるには結局制作するしかない。だったら、あまり難しいことは考えないで、ただがんばればいいという、シンプルなマインドなんですよね。そこが僕とぴちきょさんの大きな違いかなと思いました。
ぴちきょ:仕事や事業としてやってるわけではないっていう感じなんでしょうか?
PONYO:いまはリアルの仕事とVRのイベント制作とで、二足のわらじとしてやっていますが、ぶっちゃけイベントをどれだけやっても収益は伴ってないので、“わらじが履けてない”状態なんですよね。ただ現実問題として、生活するのにはお金が必要です。だから、わらじが履けるようになったらいいなと思っていて、そこを目標にがんばってはいます。
でも、“約束されたわらじ”がなければやれないかと言えばそうではなく、やれてしまう、というだけの話ですね。安定志向でやりたいわけでもなくて、ここは本当にまだ見ぬステージだと思うので、いまのうちに走り続けていれば、VRが一般的になったときに先駆者として利益が得られる立場にいられると思っていて。
そうなったら、僕もリアルの仕事を辞めて、こちらを専業にしたいと思っています。そんな楽しい未来を想像しつつも、一方でそれが実現する確証がなければやらないといったネガティブな判断はしたくないです。
ぴちきょ:いまは収益が立たないから二足のわらじ状態だけど、目標としては一足のわらじにしたい。けれども、いまは現実的にできないから、その方針に共感してくれる人と採算度外視でやっている、ということですね。
PONYO:そういうことです。
ぴちきょ:反対に、私はここに人生フルコミットしているんです(笑)。もちろん、約束された将来なんて一切ないですけども、私はメタバースは絶対に来ると思っていて。
たとえば、いまの世代の子供って、不登校の子が多いんですよ。そして、N高等学校などが取り組んでいますが、一般の学校に行くのが難しい人たちが、メタバースの学校に登校して、授業を受けるという形の教育が、すでに始まっているんですよね。
この前、『Google Earth』の中をドローンのコントローラーで操縦できるコンテンツを開発中という面白い人に出会ってお話をしたんです。企業からもドローン操縦・撮影の依頼が来るようなすごい人だったんですが、聞けばまだ20歳で、しかもN高出身。教育も多様性が重要で、才能ある人はどこからでも生まれるのだなって思ったんですよね。
メタバースも、そうした多様性を社会に浸透させる技術だと思います。足腰が不自由な人でも走り回れるし、老人になっても若い人たちと交流できる。物理的制約を超えた身体拡張・生活活用ができるツールなんですよ。そして、私はそれが広がった世界の一端にいたいなって。
PONYO:こうしてみると、全然違うことを考えて、全然違う設計をしている人が、同じように活動して領域を広げているって、ちょっと面白い。 現実ではちょっと考えられないですよね。
ぴちきょ:簡単に横のつながりを作れるのが、リアルにはない面白さですよね。
PONYO:面白いですよね。リアルだったら「経済活動してる人としてない人」っていう、身も蓋もない分け方になりますもんね。プロ野球と草野球ぐらいの違いがある。僕は草野球でいつかスカウトもらえたらいいなって思ってるんで。
ぴちきょ:そういうところから、スター選手が出てくることもありますからね!
PONYO:もしかすると、とてつもない市場規模の草野球リーグが生まれるかもしれないですからね……!
――実際、お金以外の目標を定めることによって、行動の原動力になる人もいますよね。
PONYO:目標がないとやっぱ活動は続けられないですからね。僕自身、なんかよくわからないことをやっている自覚はありますけど、目標があるし、そこに興味あって、楽しいという感情もある。だからやりたい。それでいいじゃんって思ってます。
ふたりが伝えたいTIPS:自ら現地を知り、現地を知るパートナーと歩むこと
――最後に、最前線に立つお二人から、これからメタバースでなにかしたいと考えている企業担当者などに向けて、伝えたいことがあればお願いします。
ぴちきょ:まずはVRで遊んでみてほしいですね!
PONYO:それはほんとにそう! 共通言語があると、なにかを一緒に作るうえでもスムーズですからね。
ぴちきょ:やり込むまでいかずとも、まずは体験してもらうだけでもいいんです。もし身近にいるのであれば、すでに遊んでいるお友達に案内してもらうのもよいと思います。そのうえで、「この世界、面白いぞ!」と思ったら、どんどんこちらに来てほしいですね。
――まずは身をもって体験、そのうえで面白さを肌感覚でとらえてほしいと。PONYOさんはいかがでしょう?
PONYO:『VRChat』は特にそうですが、メタバースでなにかをやることはリスクでしかないと思っています。ここでいう「リスク」とは、言葉の本来の意味通りプラスにもマイナスにも振れる不確定要素という意味です。現実にも同様に存在するものですが、現状のメタバースは、リスクに対するプラスの振れ幅が正直大きくはありません。
だからこそ、メタバースでの施策を成功させる上で、リスクヘッジは絶対に考えるべきです。マイナスになりすぎず継続できる体制を、最低限は整えたほうがいいです。
そして、そのためには信頼できるパートナーを探す必要があります。メタバースの施策を成功させるノウハウは、世の中に広まっていないどころか、現状ほとんど存在しないと言っても過言ではない。実績がないコンサルタントとかと組んでも、本当にデメリットにしかならない。
なので、たとえば往来さんのように実績があって、現地のこともわかっていて、ユーザーやコミュニティとの距離も近く、日々の変化に柔軟に対応できるようなパートナーと組むことを、強くおすすめします。
“成功するメタバース”にとって必要なものとは? ヒット施策を手掛けるキーパーソン、往来・ぴちきょ×PONYOが語らう
連載「Performing beyond The Verse」では、バーチャルにおけるありとあらゆる「創作」と「表現」にたずさわ…