ヒトの認知を“拡張”するAR作品にはなにが必要か 『Hyper Music Venue』受賞者×主催メンバー×審査員長らが語り合う

2024年10月10日から12月23日にかけて開催されたAR音楽ライブの制作コンテスト『Hyper Music Venue』。都市×音楽ライブをテーマに、ARで渋谷のスクランブル交差点を拡張するという試みで開催された本プロジェクトには多数の作品が応募され、盛況のうちに終わった。
数ある応募作品から、最優秀作品に輝いたのは、Hajime Takashi氏が制作した『でんぱ組.inc LIVE at 宇宙渋谷ドーム』。渋谷の街を“宇宙に存在する架空のドーム”に見立て、さまざまな演出を施した渾身の一作だ。完成度の高さに思わず審査会のメンバーも舌を巻いたという本作は、現実の都市空間にARというレイヤーをかぶせ、絶妙なバランスで体験者を「見たことの無い渋谷」に連れていってしまう。
本作を制作したHajime Takashi氏は、ソーシャルVR『cluster』のワールドの制作や生成AIを活用した動画作品の発信を中心に活動するクリエイターだ。今回は、本プロジェクトのプロデューサー・Chujo氏と、審査員長を務めた映像作家・くろやなぎてっぺい氏を交えた3名の鼎談で、本作の制作過程や狙い、プロジェクトを終えての手応えや、さらに広がる活用のアイデアについて語り合ってもらった。
Hajime Takashi(たかし)
2022年から創作活動を開始。動画編集・ゲーム制作・メタバース空間制作など、幅広いデジタル表現に取り組む。技術を駆使するだけでなく、感覚や直感を大切にし、観る人が「新しい視点」を体験できることを目指している。代表作に、宇宙を旅する自転車をテーマにしたメタバース空間や、非日常を遊び心で表現した巨大なお菓子を転がすメタバース空間など。
くろやなぎてっぺい
ブランドムービー・ミュージックビデオ・教育番組コンテンツなどをベースに、空間演出や音楽パフォーマンス、現代美術など、多方面で活動。NHK連続テレビ小説「半分、青い」オープニング映像、Mr.Childrenステージビジュアル、「デザインあ」ID映像など。「映像作家100人」選出。またライフワークとして「あいうえお作文RAPプロジェクト」を企画。P.I.C.S. management所属。
Chujo
STYLY クリエイターマネジメントマネージャー、STYLY Magazine編集長、コンテンツディレクター 。業務系SEを経て創業初期のSTYLY社に携わり、ファッション/カルチャー系VRコンテンツ制作を担当。XRナレッジメディア「STYLY Magazine」を立ち上げ編集長就任。STYLY Magazine/STYLY Learning Material/NEWVIEW/Hyper Music Venueプロジェクトに携わり、XRクリエイター育成に注力。
VRとAI中心の活動から、『Hyper Music Venue』がAR制作にチャレンジするきっかけに
ーーまずは、Hajime Takashiさんのご経歴やこれまでの活動について教えてください。3D制作はもとからやられていたんですか?
Hajime Takashi(以下、Takashi):一番最初は、STYLYの『NEWVIEW』のスクールでも授業をされている谷口暁彦さんが、自分の通っていた大学でゲームエンジンの『Unity』の使い方を教えていたことがきっかけです。
3D制作のことは学んでいたので、自分でも作ってみようかなと思い、3年前の2022年から『cluster』のワールド制作から始めました。初めてワールドを公開したとき、10人ぐらいではありましたけれど、沢山の方がSNSで自分の作ったワールドについての感想を写真付きで投稿してくださったんです。「こんな風に楽しかった!」と言ってくれているのをみて、直に人を楽しませることができてるな、という感覚があって。そこからだんだんとハマっていった、という感じです。
現在はメタバースのワールドだけでなく、ゲーム作品や生成AIを活用した動画を制作してSNSやnoteで制作のことを発信したり、今回のようなコンテストに応募してみたりしています。
ーー今回のプロジェクトは、どういったきっかけで応募することにしたんでしょうか。
Takashi:最初に知ったのは、STYLYさんが出されているプレスリリースです。もともと、VRだけでなくARなどのXR領域にも興味があって、調べて面白そうなものがあったら体験しにいく、ということをしていたんです。その流れで今回の『Hyper Music Venue』について知り、「面白そうなことをやってる!」と思って参加を決めました。
ーー2年前にSTYLYが実施していた『ULTRA XR LIVE』も、現地に足を運んでいらっしゃったとか。
Takashi:そうですね。実際に『ULTRA XR LIVE』を体験して、その演出や没入感に圧倒されました。あのライブがSTYLYさんが公開されている「都市テンプレート」を活用して作られていると知ったとき、自分もこのテンプレートを使ってXR作品を作ってみたい! と思ったんです。ただ、やりたいという気持ちを抱えてはいたものの、一歩を踏み出せずにいまして……(笑)。
そこへきて、今回の『Hyper Music Venue』ではでんぱ組.incさんの音楽とボリュメトリックデータが提供されるという話だったので、これはもうやるしかないな、と参加を決めました。

ーー今回の『HMV』では、でんぱ組.incのライブと都市空間の融合がテーマになっていました。あらためて、Takashiさんが制作された『でんぱ組.inc LIVE at 宇宙渋谷ドーム』のコンセプトや制作過程について教えてください。
Takashi:まず、最初に始めたのは実際に渋谷に足を運んで「ここに出すんだぞ」という気持ちで写真や動画を撮ることでした。いわゆる、ロケハンですね。そこから何を出したら面白いかな、ということを考えていきました。
それから、制作を始めた当初はでんぱ組.incさんに対する知識が足りていなかったので、まずは彼女たちについて勉強するところから始めました。そうしていくうちに、でんぱ組.incさんが楽曲やライブで『宇宙』というテーマをたびたび取り入れていることを知りました。また、アルバムのジャケットでUFOをモチーフにしているのを見て、こうした要素も取り入れると面白いんじゃないかな、と思って。
でんぱ組.incさんのエンディングライブも『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』というタイトルでしたし、メンバーの方々のブログとかも拝見していると「宇宙を救ってきた」といいう表現を使っていたので、だったらUFOとかを出して「宇宙の歌姫・でんぱ組.inc」といった見せ方をするといいんじゃないかと。それで、渋谷を「宇宙渋谷ドーム」という架空の惑星に見立てて、そこでライブをする……というコンセプトで制作を進めていきました。