連載「Performing beyond The Verse」(第2回:往来・ぴちきょ×PONYO)
“成功するメタバース”にとって必要なものとは? ヒット施策を手掛けるキーパーソン、往来・ぴちきょ×PONYOが語らう
「メタバース」を筆頭に、拡大をつづけるバーチャルの世界。そんなバーチャルの世界には、現実世界同様にさまざまな「表現者」がいる。連載「Performing beyond The Verse」では、バーチャルにおけるありとあらゆる「創作」と「表現」にたずさわる人びとに話を伺っていく。第二回目は、株式会社往来の代表・ぴちきょ氏と、VRイベントプロデューサー・ディレクターのPONYO氏をお招きし、対談を実施した。
一時、バズワード的な広がりを見せた「メタバース」という言葉。「AI」に取って代わられる一過性のものだと言われた時期もあったが、実際のところは堅調を維持している。最近とくに注目を集めるのが、企業・自治体の参入だ。
しかし、こうした事例はときに成功例と失敗例の明暗差が際立ってしまう瞬間がある。話題の取り組みとして注目を集め、ユーザーの間「定番コンテンツ」として定着する取り組みもあれば、作ったはいいものの思うように集客ができず「ゴーストワールド化」してしまうものもある。こうした注目度の差が目に見えてしまうことは、メタバースのむずかしさのひとつだ。
では、どうすればメタバース参入は成功するのだろうか? 数多くのクライアント案件を手がけ、ユニークなコンテンツ作りに定評のある往来・ぴちきょ氏と、バーチャルファッションショー『Voyage』や、MyDearestのVR音楽ライブなど、数多くのユーザー主体イベントを成功させてきたPONYO氏二名による対談を通して、“成功するメタバース”のカギを探る。
前編では、企業と消費者たるユーザーの間にまたがるギャップについて考えながら、それぞれが担当した実例をもとに「成功への道筋」を紐解いていく。(浅田カズラ)
◆往来・ぴちきょ
スマホ周辺機器メーカー「Cheero」へ立ち上げから参加し『ダンボーバッテリー』などのヒット商品を手がける。2021年3月にVRメタバースマーケティングを中心とする株式会社往来を作り『VRと仮想空間』を出版。主な事業内容は『VRChat』を活用した企業World構築やイベントプロデュース。
◆PONYO
VRイベントプロデューサー/ディレクター。VRChat最大級のファッションショー『Virtual Fashion Collection “Voyage”』のディレクターを務め、その後VRアイドルフェス『CinderellaFes.』やゲーム会社主催の音楽フェス『MyDearestJAM 2024』など数々の大規模イベントを手掛ける。
企業が“本当にメタバースでやりたいこと”とは?
――お二人が企業などから「うちもメタバースをやりたい」といった話をもらう際、具体的にどのような内容が多いと感じますか。
ぴちきょ:株式会社往来はいわゆる”カタめ”の案件が多いです。特に、京セラさんと実施した『VRChat』のパビリオンワールドが、玄人筋からの反応がとても良く、基礎技術をお持ちの企業さんから「うちもあんなことがしたい」とご相談いただくことが増えました。
BtoCのエンタメより、“BtoBtoC”が多いという形ですね。日産自動車さんなど、既存のお客様とも継続してやっていければと、というお話をさせていただいてます。
PONYO:僕が多くご相談いただくのは、すでにメタバース、とりわけ『VRChat』に進出済みの企業ですね。「すでにこういうことをやっているのだけど、ここを手伝ってくれないか」というようなお話で、ある程度の具体性があるケースです。
一方で、そうした企業の取引先が「メタバースをやりたい」ということで、お繋ぎいただくこともあります。この場合は何がしたいのかどころか、「そもそもメタバースとはなにかわからない、教えてほしい」ということが多いですね。
――お二人の主観で構いません。ぴちきょさんとPONYOさんからみて、現在の企業のメタバースの理解度・解像度はどのようであると感じますか? よくある“誤解”もあれば教えてください。
PONYO:すべての企業がそうではないと思うのですが、はっきり言ってしまうと、やはり理解度・解像度はかなり低いと思っています。ノウハウが広まっていないのもありますが、担当者の方の理解度はともかく、予算を管理・決裁する上席の方々は、実際に『VRChat』やメタバースをプレイしていることがほぼない。なので、予算承認に際して、実態に即していないKPIを設定してしまい、多少理解のある担当者が板挟みになってしまうケースがすごく多いと感じています。
『VRChat』上での施策だと、よくある事例としてひとつワールド(3DCG空間)を作る、というものがあります。これは『VRChat』に触れていない人の感覚からすると「メタバース上に施設をひとつ作った」ように見え、一度作ったあとは現実の観光地のように恒久的に人が再訪してくれる“ように思ってしまう”。
でも、実際の『VRChat』におけるワールドは、「話題になったときに一度だけ来るもの」と捉えているプレイヤーが大半です。ここに齟齬が生まれる。現実の物差しで測れないことが多くて、しかもそれを言語化できる人はかなり少ない。コンサルタントであっても、現役の『VRChat』プレイヤーでも。
――俗に「過疎バース」と呼ばれるものが生まれる典型的な要因ですね。
PONYO:一昔前における、WebサイトやSNSプロモーションに近いですよね。広告効果や価値がイマイチわからないので、相場とかけ離れた予算しか出してもらえない。結果、微妙なサイトしか制作できなかったり、なんの反響も得られないプロモーションしかできなかったりする。
その結果を見て、「やっぱWeb/SNSってダメじゃん」と経営者が感じて、猜疑心がさらに強くなる。そうした負の連鎖が、いまメタバースに対しても起こっているんじゃないかなと思います。
――ぴちきょさんはいかがでしょうか?
ぴちきょ:弊社は運がよいのか、メインのお客様は意外と解像度が高いことが多いです。というのも、マーケティングや広報を担当される方からお話をいただくことが多いので、みなさまSNSに精通されていることが多く、メタバースの基礎知識をある程度持った状態でご質問をいただくことが多いんです。
あと、KPIについては「いま『VRChat』で施策を打つ分には、わかりやすい数字は取れないですよ」と最初にお伝えすることが多いです。その前提で何をしようか、というところから打ち合わせを重ねていきます。「このくらいの予算であれば、こうした施策を打てば、SNSでこのくらいの反応は取れますよ」というように。
ただ、PONYOさんもおっしゃっていたように「作れば人が来る」とどこかで思っている方もいらっしゃいます。「メタバース」と一口に言っても、プラットフォームによって特性も、来る人の属性もバラバラです。なので、弊社では打ち合わせの最初の段階で、各プラットフォームの説明から入ります。
――『VRChat』や『cluster』の違いって、普通の人ではまずわからないですからね。
ぴちきょ:わからないですね! さらに『Decentraland』みたいなNFTに特化したものまであり、ほんとにバラバラ。だから、お話をうかがっている中で「それは『VRChat』じゃなくて『Fortnite』の方がいいんじゃないですか?」となることもあります。
PONYO:メタバースを「新天地のブルーオーシャン」だと思っているのか、参入に対する性急さを感じることが多いですね。「よくわからないけど、なんかとにかくやりたい!」と、じっくりリサーチをせず「他よりも先行したい」というのが優先目標になってしまっているというか。
――おそらく、過去何度も繰り返されてきた光景ですね……。