需要と供給のバランス、経済活動へのハードル……キーパーソンたちが考える“メタバース全体の課題”

【対談】成功するメタバースの作り方(後編)

バーチャル経済圏の萌芽は繁栄か、破壊か 「成功の定義」の変化がもたらすもの

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――先ほど、「クリエイターエコノミー(※)」の話題が出てきましたが、いわゆる経済圏が今後『VRChat』へ本格的に実装されたとき、これまで挙げてきたような「成功の定義」は変化していくと思いますか?

(※クリエイターへ金銭的な還元を行うためのシステム。本記事執筆時点では、『VRChat』にサブスクリプション形式でクリエイターを支援する機能が実装されており、クリエイターは金額プランに応じて、自分のワールドを訪問するユーザーに様々な「特典」を付与できるようになっている)

ぴちきょ:変化していくと思います。ちゃんと売上を求める時代にフェーズに入っていくんじゃないかなと思いますね。逆にこれまでって、収益システムがないからこそ、売上のことを考えなくて済むところがあったので、いざ登場した際に「結局売り上げなんか取れないじゃないか」と判断されてしまうのがすごく怖いですね。

PONYO:今は先行投資をされているわけですからね。それが実らなかった時のギャップがどうのしかかってくるか、課題になるでしょうね。

 ただ、企業がそのあたりを考えるフェーズの前に、「個人の経済圏」、「金銭的手段を含むソーシャルコミュニティ」の在り方が変わるのが大きいんじゃないかなと思います。

 『VRChat』はソーシャルサービスなので、ユーザー間のコミュニケーションがコンテンツの核としてあります。そこに金銭が付随するようになる、というのが経済圏実装の第1ステップだと思うんですよ。

 日本のユーザーには「企業が大々的に入って経済活動をする」ことに否定的な人が多い、つまり企業の参入で自分たちの作ってきたコミュニティや文化が破壊されることへの警戒心が高い印象があって。

 それをVRChat社がよく理解しているならば、まずはいち個人であるユーザーの理解を得るよう務めると思うんです。ソーシャルサービスを担う個人ユーザーが離れれば、ソーシャルコミュニティが成り立たなくなり、そうなってしまうと企業も参入する理由がなくなる。

 なので、成功の定義に「継続的な収益」が加わる変化はありつつも、その手前の段階でユーザー主体が大前提になるのではと自分は考えています。

――言ってしまうと、あまりにも金銭的やりとりがなさすぎたところに、やっとそれが芽生えるという段階ですよね。「今日はいい演奏をありがとう」というような、お金を用いて気持ちを伝える営みといいますか。

PONYO:応援にお金がついてくるっていう形ですね。そうした経済圏ができあがった上で、企業がどういう経済活動をするのか、という議論に発展していくと思います。まぁ、たぶん相当手探りになると思いますよ。なんだったら企業は怖いとすら思うんじゃないですかね。あまりにわからなすぎて。

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――いち個人で経済活動を始めよう、という段階でも多少勇気はいりますからね……

PONYO:拝金主義みたいに思われたら嫌ですからね。極端に儲けを嫌う土壌はあるのではないかと。

ぴちきょ:そうですか? だいぶその風潮って薄まってきてません? 私が『VRChat』を始めた2019年と比較すると、いわゆる「嫌儲感」ってだいぶ薄くなっていると思うんですけども。

PONYO:それは自分が音楽界隈にいるからこそ感じるところかもしれません。音楽界隈だと、「カバー曲で、人の著作物で金を稼ぐのはどうなんだ」みたいな意見が出るくらいには、収益を得るのってかなり揉めがちなポイントなんです。たとえばVTuber業界をみても、「歌ってみた」枠でスーパーチャット(投げ銭)をもらうと批判されてしまうことがあったりするわけです。僕からすると「立派な経済活動じゃん。いいじゃん」って思うんですけどね。

ぴちきょ:そうなんですね……自分はアバターやバーチャルファッションの分野を見ていてる中で、マーケットやプロモーションをしっかり考えて動き、売上を立てているクリエイターの存在を知っていたので、印象は真逆でした。

 立派な個人事業主が多いんですよね。実際、「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024」でも、3Dモデルカテゴリの取扱高って31億円まで伸びていて、かなりの金額が動いているのが示されています。

引用元:BOOTH

――『VRChat』全体だけでなく、各コミュニティ・界隈ごとにも、経済圏の発達に進展差が生まれる可能性はありそうですね。「あの地域は進展が遅いな」というような。

ぴちきょ:それはちょっとリアルでおもしろいですね。現実における地方の格差のようで。個人的には、ここにいるのは人間なので、環境の変化で物議を醸していくのはよいことだと思います。その中で残って成長していくものもあるはずなので。

 とはいえ、最近は若い人たちの制作チームなどが起業に至るパターンも増えているじゃないですか。「この世界は会社を作っていいんだ」と思う人が、この2年ぐらいで増えている。全体的に意識は変わっているように思います。

――自分もそうしたケースは昨年よく見かけましたね。外に出て、稼ぎを上げて生活しようという意識が、一般的になっているとは思います。地域差こそあれど、もしかすると地域間の交流や橋渡しが行われる可能性もありますよね。

PONYO:やはり価値観同士がぶつかり合わないと、アップデートされていかないですからね。いまは良くも悪くも千差万別すぎるけど、その中からメインストリームが今後生まれて、その過程で賛否両論になることも山ほど出てくるはずです。いまはその目前くらいかなと感じますね。

――価値観の相違による“衝突と繁栄”とでも言いましょうか。

PONYO:ちょっと物騒に聞こえますね(笑)。とはいえ、このままコミュニティが固まりきって、それぞれ独立した状態のまま発展性が感じられなくなると、衰退の一途をたどってしまうと思います。新しい風が常に吹くのは必要ですし、いまある環境に自分は感謝していますね。

ぴちきょ:そうですね。『VRChat』の世界はコミュニティが強いぶん、内側に向きがちなところがあります。影響し合うのも内々、揉め事も内々になる。そろそろ殻を破って外に出ていくことを、『VRChat』の中にいる人が意識してもいいような気はします。

 それこそ、クリエイターエコノミーの到来や、スマホユーザーの急増に際して、混乱がある中でも殻を破っていかないと、『VRChat』自体が一地方都市にとどまってしまうと思うんです。それは企業も、VRChat社もおそらく求めていない。なので、コミュニティを大事にしつつも、それに囚われすぎるのも良くないと思っています。私は、もちろん尊重しながらも、近視眼にならない距離感を保って、外に開いた施策を共にやっていきたいです。

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