『ゼルダの伝説TotK』が向き合った前作の“問題点” 自由度とストーリーはどのように両立したのか

『ゼルダTotK』が向き合った“問題点”

「ゼルダを探す」という目的が探索や収集のきっかけに

 ゲームの流れ自体は『ゼルダの伝説BotW』と同様に、「最初からラスボスの場所まで直行できる」、「主要な目的地を4箇所同時に提示する」という枠組みの元に成り立っているが、『ゼルダの伝説TotK』が前作と根本的に異なるのは、ゲームプレイの大部分の目的が「ラスボスを倒す」のではなく、あくまで「ゼルダを探す」ことに充てられていることにある。主要な目的地に行く理由は「大きな異変が起きているので、そこに行けば何かが分かるかもしれない」という取っ掛かりにすぎない。同様に「シロツメ新聞社」関連に代表される本作のサブクエストの多くも、「ゼルダの目撃情報の真相を確かめる」ことにあり、本来であればサブ要素的な広大な地底エリアの探索や各村の訪問も「そこに行けば何かが分かるかも」という助言をきっかけにして話が動いていく。道中で出会う登場人物の多くも、リンクのそういった事情を理解し、分からないなりに話に乗ってくれる。「捜索」を目的とすることによって、本作はプレイヤーが自分の興味の赴くままに行動することを積極的に肯定する。もちろん、そこには本筋とはまるで関係のないサブクエストも少なくないのだが、このような流れを汲んでいるために「せっかくここまで来たし、ついでに依頼を引き受けようかな」という感覚を与えてくれるのである。

 このようなアプローチは、前述した『Fallout 4』などの作品においても取り入れられており、『ゼルダの伝説TotK』が初めてというわけではない。だが、多くの作品が結局は一つのクエストラインに物語が収束していくのに対して、『TotK』は更にもう一つの工夫を入れている。それが「物語の断片化」である。捜索を進めていくにつれて、プレイヤーには様々なゼルダの消息の手がかりや、その背景にあるヒントが与えられていくが、それらはあくまで断片的な情報にすぎず、時系列もバラバラである。物語の全貌を掴むためには、まるでマップを通してジグソーパズルを集めるかのように、探索を続け、情報を集める必要があるのだ。

 「収集」というアプローチは、オープンワールドゲームにおけるサブクエストやメインクエストの一部パートなどで数えきれないほど用いられてきたものであり、遡れば『ゼルダの伝説 風のタクト』における「トライフォースのかけら集め」もそのような事例の一つだろう。しばしば「作業ゲー」とも揶揄されがちなこの方式だが、『ゼルダの伝説TotK』ではなぜかこれが苦痛にならない。それは、やはり本作のゲームプレイ自体が探索に重きを置いたものであり、「あの場所に何かあるのではないか」というプレイヤーのゲームプレイにおけるモチベーションと、このようなストーリーテリングの形式が合致しているからなのではないだろうか。

ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム 3rdトレーラー

 『ゼルダの伝説BotW』でも「ウツシエの記憶」においてこの形式が採用されているが、そこで閲覧できる前日譚のカットシーンはあくまで“作品のストーリーを補完する役割”に過ぎず、クリア後に本格的に収集を開始したというプレイヤーも多かっただろう。だが、続編となる本作では、これを“メインストーリーを語るための形式”として採用している。言わば、本作は物語そのものを「探索に対する報酬」としたのである。この点は、ともに物語の導入の役割を担っている『ゼルダの伝説BotW』のハイラル王と『ゼルダの伝説TotK』のラウルがリンクに与える情報量の差からも読み取れ、両作のストーリーテリングにおけるアプローチの違いを象徴していると言えるだろう。

 『ゼルダの伝説BotW』は、筆者にとってもっとも「プレイヤーのことを信じている」と感じさせてくれるゲームの一つだった。その理由は、必要最低限の前提知識とツールを与え、あとはプレイヤーにその先を委ねるという開放的なゲーム構造にある。同作をプレイした人であれば「スタートとゴールさえ教えてくれれば、あとはこちらでどうにかできるだろう」という感覚を分かってくれるのではないだろうか。その続編である『ゼルダの伝説TotK』では、この感覚がさらに大胆にアップデートされ、プレイヤーが積極的に探索するという前提の元にストーリーテリングが成立しており、オープンワールドであることに必然性すら与えている。だからこそ、本作は前作以上に「この世界を旅し、そこにある物語に触れている感覚」を味わわせてくれるのである。

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