『ゼルダの伝説TotK』は、なぜ我々を「嬉しくさせてくれる」のか 物理演算の進化が打ち破った“暗黙の了解”

 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、『ゼルダの伝説TotK』)を遊んでいると、なによりも「嬉しい」という気持ちになる。それはプレイ時間が50時間を超えたいまでも変わることはなく、様々なロケーションに足を踏み入れるたびに、また新たな「嬉しい」という気持ちが生まれ、チュートリアルエリアである「始まりの空島」で抱いた感覚も決して衰えることはない。

 その「嬉しさ」の根源にあるのは、自らの直感が阻まれることなく実現できることへの喜び、さらに言えば、これまで様々なゲームを遊ぶなかで、いつの間にか、誰に頼まれたわけでもなく自分の中に作り上げていた「暗黙の了解」が打ち破られていくことの快楽とでも言うべきだろうか。

 最も分かりやすい例の一つが、本作における代表的な能力である「トーレルーフ」だろう。事前に紹介動画で「天井を通り抜けて、その上に移動することができる」というこの能力が発表された時、筆者が抱いたのは「え、いいの?」という驚きだった。だが、実際に能力を試して、それがうまくいった時の「あ、本当にいいんだ」という感覚は、広大なマップに降り立ち、直感の赴くままに洞窟の奥底から、崖の下から、別の階から「トーレルーフ」を使って上へとスポッと抜ける瞬間を重ねるごとに「うまくいった!」という喜びへと変わっていく。時には予想外の場所に抜け出すこともあり(筆者は一度、湖のド真ん中に飛び出しそうになった)、それはそれで「なんでこんな場所に」と笑ってしまう。きっと筆者を含め、多くのプレイヤーが無意識のうちに“上”を眺めるようになっていることだろう。

画像:「プロデューサーの青沼英二がプレイする『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』」より

 考えてみれば、「トーレルーフ」に対して「え、いいの?」と思うこと、それ自体がまさに「暗黙の了解」が自分の中に根付いていることを明確に示していると言えるだろう。いくらオープンワールドといっても、ゲームにおけるマップはあくまで「作られた世界」であり、そこには見えない壁が大量に存在するものだ(『Fallout 3』において、地図上では地上を歩いて行けるように見える目的地へ、何度も地下鉄を経由しながら移動したように)。また、いくら自由度があるとはいえ、目的地へ辿り着くまでには様々な敵や障害物が用意されているものであり、それを楽しむのがゲームというものだ、という認識もあるだろう。「トーレルーフ」はそんな先入観に対して意義を唱える、立ちはだかる障害をスキップしてしまえる能力だからこそ、「え、いいの?」と思ってしまったのだ。

画像:「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム TVCM フィールド篇」より

 だが、その先入観はあくまで開発者側における技術やリソース上の制約、あるいは制作における考え方から生まれるものである。それをいつの間にか、自分自身も「そういうものなのだ」と思うようになっていた。『ゼルダの伝説TotK』を遊んでいると、そんな自分に対して、ゲーム側から「そんなこと気にするな、好きなように楽しんでくれ」と教えられているような気がするのである。そして、実際に好きなように楽しむことができるのだから、これが嬉しくないはずがない。

 この「直感の実現」と「暗黙の了解の打破」が生み出す「嬉しい」という感覚は、本作における他の能力を使っている時にも同様に感じることができる。「スクラビルド」で剣先がビヨーンと伸びる武器や、投げるとそこら中に冷気をバラ撒くブーメランを作った時や、大きな物を運ぶのに苦心するも「モドレコ」で時間を巻き戻して、「ウルトラハンド」で位置を再調整して……を何度も繰り返して強引に突破した時、形容しがたい自作の乗り物が実際に使える乗り物として動いた瞬間など、初めて知った時には「え、いいの?」と感じるほどの能力が、やがてしっかりと自分のものとして育っていくのがとにかく嬉しくてしょうがない。直感的に「できるのでは」と感じたものが、「とはいえ、そこまでは難しいか」という暗黙の了解を打ち砕いて実現してしまう。それは、ゲームの中だけではなく、ゲームそのものに対しても可能性の広がりを感じる体験ですらある。

画像:「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム TVCM アクション篇」より

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