『まどマギ ワルプルギスの廻天』に向けて 狩野英孝の因果律と初見の“感情エネルギー”

『まどマギ』狩野英孝の因果律

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』を観るためにバイトをすっぽかしていた徳田が、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』(以下、『廻天』)をプッシュします。

『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』

 『廻天』を目撃するにあたってまず思い出されるべきは狩野英孝である。『まどか☆マギカ』を未知の物語として受け取る際の「感情エネルギー」を想起させてくれるからだ。

 狩野は2025年にTVerで実施された、TVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の副音声コメンタリー配信を担当していた。狩野の本作へのリアクションは、多くのファンにとって「初見」視聴を理想的な形で追体験させてくれるものとして好意的に受け止められた。シリーズを散々「ループ」視聴してきたファンにとってはもはや見慣れた光景である劇団イヌカレーの魔女空間や、巴マミの惨殺、美樹さやかの「変身」など、初見では面食らうような展開に、狩野は「模範的」な驚きでもって反応してみせた。

 この狩野の視点は、本作の「視点人物」たる鹿目まどかの視点とも重なりうるだろう(※1)。何の事前知識もなく本作に立ち会う視聴者の視点は、ちょうど何も知らされず、魔法少女としての力も持たず、ただあまりにも理不尽な状況に右往左往するまどかの視点に限りなく近づいていく。初見の視聴者は、まどかとともに見滝原の街に放り出され、シャフトと劇団イヌカレーが設計した前後不覚の空間に翻弄され、数々の理不尽を目撃し、絶望していく。

 しかしそれゆえに、最終局面で実現する急速な視座の転回は、強烈なカタルシスを生むだろう。まどかは自らの身体を世界秩序そのもの(円環の理)へと変化させ、不可避的に理不尽に晒され続ける少女たちが救済される世界を再創造した。視聴者と視点を共にし、目の前の惨劇をただ眺めるほかなかった一人のもの知らぬ少女が、一気に神の座に上り詰める。上空に現れるワルプルギスの夜といった「災害」をただ仰ぎ見るしかなかった無力な少女の視線が、突如として最高次のメタ視点に切り替わり、世界を総覧する。いわば視点の「相転移」がもたらすカタルシス=感情エネルギーを、我々は体感していただろう。

 こうした視座の高速移動は、続編の『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(以下、『叛逆』)にも継承されていた。

 『叛逆』の物語は、まどかが不在の世界、そうなった理由を観測してきた暁美ほむらの視点を通して描かれるかに思われたが、何やらほむらにも理解不能な事態が起こっている。そしてそれらの謎が解き明かされる際にはやはり円環の理が降臨する。TVシリーズにおいてはまどかの視点から眺められていた世界の謎とその解決が、今度はほむらの視点で反復されるような構図だ。

 ところがこの構図は最終局面でさらにもう一段階高次の領域に至る。

 円環の理をも凌駕する力を手にしたほむらは、もういちど世界の秩序を創りなおす。「悪魔ほむら」と呼ばれるようになったそのビジュアルイメージは堕天使のそれであり、神の超克と堕天とを同時に遂行するほむらの「叛逆」によって、『まどか☆マギカ』の世界の抽象レベルは上下に拡張されるだろう。TVシリーズが12話かけて構築してきた高度なメタ視点を、『叛逆』はわずか2時間弱の尺の中で早々に超越・破壊したのだ。

 このような、視点人物の移行に次ぐ移行、視座の抽象度の高速移動が、クリフハンガーを強調した物語展開とあいまって、およそ予測不可能な世界観を構築した。あるいはコラージュ的感覚に満ち、「焦点」という発想が消滅している劇団イヌカレーによる魔女空間(※2)、TVシリーズOPテーマ「コネクト」の「視点人物」がほむらであることが徐々に明かされていった(偶然の)演出など、『まどか☆マギカ』のあらゆる要素が、我々のパースペクティブを撹乱し続ける。

 その「初見」の驚きを的確に体現する人物として狩野英孝は君臨したのだ。

 悪魔ほむらが世界を再創造してからというもの、我々の現実では(相次ぐ公開延期もあり)10年以上の時が経っており、あの世界はいわばあの頃のまま凍結している。このスタティックな秩序がどのように砕氷されていくのか、そのような期待とともに『廻天』は迎えられるだろう。

筆者撮影

参照
※1. 石岡良治「魔法少女たちの舞台装置」(石岡良治『「超」批評 視覚文化×マンガ』青土社、2015、所収。p.91)
※2. rino「シャフトアニメの視覚表現美学の源流——劇団イヌカレーとシュルレアリスムについて」(『シャフト批評合同誌 もにも〜ど3』2025、所収)

■公開情報
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』
全国公開中
キャスト:悠木碧、斎藤千和、喜多村英梨、野中藍、水橋かおり、阿澄佳奈、若山詩音、黒沢ともよ、加藤英美里
原作:Magica Quartet
総監督:新房昭之
脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクター原案:蒼樹うめ
監督:宮本幸裕
キャラクターデザイン/総作画監督:谷口淳一郎
総作画監督:山村洋貴
異空間設計:劇団イヌカレー(泥犬)
絵コンテ/ビジュアル・コンセプトデザイン:古川知宏
ビジュアル・コンセプトデザイン:川田和樹
色彩設計:日比野仁
美術:内藤健/草森秀一
美術設定:大原盛仁
撮影監督:会津孝幸
編集:松原理恵
音楽:梶浦由記
音響監督:鶴岡陽太
アニメーション制作:シャフト
配給:ANIMEC
主題歌:FictionJunction「彼方」
©Magica Quartet/Aniplex,Madoka Project
公式サイト:https://www.madoka-magica.com/wr/
公式X(旧Twitter):https://x.com/madoka_magica

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