『Tシャツが乾くまで』“あずさ”夏帆は“都合の良い他者”だった? “名前のない関係”の可能性

『Tシャツが乾くまで』あずさの存在を分析

 9月11日、金曜ドラマ(TBS系金曜22時枠)で放送されていた『Tシャツが乾くまで』が最終回を迎えた。

 本作は2組の夫婦の物語。夫の瀬尾充(松山ケンイチ)がバス転落事故により行方不明となった咲子(蒼井優)は、充と同じバスに乗っていた園田あずさ(夏帆)を亡くした夫の樹生(中島歩)と助け合う仲となる。しかし樹生は、同じバスに乗っていた充とあずさが不倫の関係にあるのではないかと疑っていた。

 充のことを信じている咲子は樹生とともに2人のことを調べ始めるのだが、やがて充が事故に遭ったバスをサービスエリアで途中下車していたことを知る。

 充とあずさは本当に不倫の関係だったのか? そして充はなぜ途中下車し、今も咲子の元に戻ろうとしないのか? という謎が強い引きとなり、当初はミステリーテイストの不倫ドラマとして視聴者を引き付けた本作だが、その印象は第5話のラストで充が戻ってきたことで大きく変化する。

 戻ってきた充は、園田あずさとは第3金曜日にコインランドリーで会って話すだけの関係だったと伝えた後、自分は、恋人や職場で深い人間関係になると逃げだしてリセットしてしまいたくなる失踪癖があると咲子に告白する。

 一方、咲子は充と結婚する前に4回離婚していたことを隠しており、夫や家族に対する理想が高すぎるあまり、相手との関係がうまくいかずに離婚するということを繰り返していたことが、明らかとなる。

 本作はこれまでフジテレビで若者向けのドラマを書いていた脚本家・生方美久が、初めてTBSで書いたドラマだが、過去作とは違う大人向けのシリアスなトーンで物語はスタートした。

 その結果、これまでとは違う広がりを獲得し大きな反響を呼んだのだが、物語後半でトーンが変わりコミカルな描写が増えたため、前半と後半の落差に多くの視聴者が戸惑った。
だが、物語のトーンが大きく変わった後半のほうが『いちばんすきな花』(フジテレビ系)を筆頭とする生方ドラマの基調だったと言える。

 そして最終話では、咲子が充との離婚を決意して、充が家を出ていくまでの経緯が細かく描かれた。

 家を出た充は1人で放浪の旅に出る。失踪癖のある充にとって家は自分を縛る場所であり、咲子との暮らしに不安を覚えたのも、家を購入してからだった。

 そんな充にとって家の呪縛から解放されたことは幸福なことだった。そして、離婚こそしたが、咲子との関係が途切れたわけではない。

 充はバスでかつての自分と似た子どもに「大人になると帰る場所、増えるから」と語りかける。

 充にとって咲子は帰る場所の一つとなり、また新しく出会った人と新しい関係を作り、複数の居場所を転々としながら生きていくのではないかと感じた。

 一方、咲子も従来の家族の形から解放され、樹生とは女友達のような何でも話せる関係となった。充から店を譲り受けて元・従業員の矢野直人(高橋文哉)が店長となった喫茶・ひこうきには、咲子と樹生だけでなく、これまで劇中に登場した人々が集まる居場所となっていた。

 家を離れた充と家にとどまった咲子が選んだのは、家族や恋人といった関係に囚われない「名前のない関係」を緩やかに広げていくことだった。

 これは『いちばんすきな花』で描いた2人組を作ることが苦手な4人の若者の疑似家族的なつながりを彷彿とさせるもので、生方美久らしい着地点だったと言える。

 一方、新しい可能性を感じたのは、亡くなった園田あずさの描き方だ。

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