『ばけばけ』は“全ての人たち”に向けて作られた朝ドラ サワを“主人公”として描いた意味

『ばけばけ』サワを“主人公”に描いた意味

 サワは、小学校の代用教員で、長屋から出るため教員採用試験を受けて正規の教師になるため勉強していた。第16週では、トキだけでなく遊女のなみ(さとうほなみ)も身請けが決まり、長屋を出ていくことになり、取り残されたサワが精神的に孤立していく姿が描かれる。

 サワのエピソードは2週にわたって描かれたのだが、主人公の友人という物語の脇役だったサワの日常が描かれ、病弱の母親がいることも明らかとなる。その一方で、これまで主人公として描かれていたトキが、サワを無自覚に傷つけてしまう姿が描かれるため、健気に頑張っているサワの方が朝ドラヒロインのように見えてくる。

 つまり、暗闇からの優しい視線はトキからサワに一時的に移るのだが、何より驚いたのが、試験勉強を通して仲良くなった庄田多吉(濱正悟)のプロポーズをサワが断ったこと。

 心を閉ざし孤独に陥っていたサワにとって、庄田の存在は暗闇に差した一筋の光で、庄田もまたサワと一緒になるため、一度は断った錦織友一(吉沢亮)の後任となる英語教師の職を引き受ける。当初は軽薄に見えた庄田だが、彼が錦織に対して抱えている友人としての複雑な感情は、サワがトキに抱えている心情とそっくりだ。だから、二人はお似合いのカップルだと思った。だからこそサワが庄田の申し出を断ったことがショックだった。サワはプロポーズされて「嬉しかった」とトキに語っている。しかし、嬉しかったにもかかわらず、彼女は庄田の手を掴めなかった。

「おトキのせいだわ」
「私はおトキにはなれん。おトキと同じ道は歩けん。シンデレラにはなれんけん」

 サワがトキに心情を吐露したこの台詞は、逆説的にサワが、違う道を歩むもう一人のトキなのだと示しているように感じたが、彼女個人の心情の説明としてはわかりにくく、万人が共感できるものではない。

 だが、このわかりにくさこそサワの抱える孤独であり、こういった他人と共有できない思いを抱えた人が世界にはたくさんいるということを作り手は描こうとしたのだろう。主人公が一時的に交代したかのようなアクロバティックな描き方だったが、暗闇の中から見守る優しい視線が、朝ドラヒロインの友人であるサワに向けられたことで『ばけばけ』が、時代に置き去りにされた全ての人たちに向けて作られた朝ドラなのだと改めて思った。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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