『ばけばけ』小日向文世が勘右衛門役だった必然性 ヘブンの三之丞への“嫉妬”も波乱の予感

『ばけばけ』トキの婚約と勘右衛門の親心

「言います!」

 『ばけばけ』(NHK総合)第68話は、迷いの表情を見せつつも、こう宣言することで自分を奮い立たせるトキ(髙石あかり)の姿で始まり、ついに松野家へ、ヘブン(トミー・バストウ)との結婚を報告する。

 真っ先におじじ様こと勘右衛門(小日向文世)のところへむかい、土下座をするトキ。松野家の長でもあるが、時代と逆行してでも武士であることを大切にしている勘右衛門が“異人”と呼ばれているヘブンとの結婚に最も反対しそうな人だ。一旦はトキの切羽詰まった気持ちに反して冗談として流されそうになるが、「冗談ではございません」とキッパリとした口調に、勘右衛門をはじめとした松野家の人々はその本気度を感じることとなる。

 もうすでに出雲大社で夫婦となることを誓い合ったトキの行動は、完全な事後報告。トキは順番が違ったことを詫びた上で、「どうか、お許しいただけないでしょうか」と深く頭を下げた。

 以前の松野家だったら、怒号が飛び交うような荒れた展開となっただろう。たしかに一息ついて「おじょ」と呼びかける勘右衛門の眼差しは厳しい。だが、ヘブンと出会い、変わっていくトキを見つめ続け、自らもヘブンから習ったスキップを習得し“スキップ師匠”とまで言われるようになった勘右衛門は、ヘブンがいい人であることはわかっていたはずだ。今の勘右衛門が大事にしたいのは、自分の信念ではなくかわいい孫の幸せである。「好いちょるのか」「好き合っちょるのか」という勘右衛門からトキへの問いかけは、そんな思いが滲んでいた。

 そして、誰かをまっすぐに思う気持ちというのは、大きなエネルギーを持っており、時には別の誰かの背中を押すもの。勘右衛門は不意に「わしらは猪。猪突猛進じゃ」とつぶやき、なんとその足でいつも他愛ない会話をするタツ(朝加真由美)のもとへ。お天気の話もそこそこに「わしと一緒になってごしなさい」と結婚を申し込んだ。

 これまで本作における松野家というのは、時代の変化に取り残された側を象徴する存在だった。その中でトキは、銀二郎(寛一郎)を追って大都会の東京へ行ってみたり、ひょんなことからヘブンの女中となって、海外の言葉や文化に触れてみたりと内から外へ、果敢に飛び出していた。もういい年の勘右衛門の淡い恋や衝動的な告白は、見方によってはみっともないとも思われるものだ。だが、勘右衛門はその殻を破って、外へ一歩踏み出した。内に残ろうと躍起になることが多かった松野家を、トキがゆっくり確実に変化させていったことが感じられる一場面だった。さらに、勘右衛門が踏み出したその先で、タツが「待っちょりましたけん」と嬉しそうに笑っていたのも印象的。松野家の幸せは一気に2倍となった。

 しかし、突発的な勘右衛門の行動により、ヘブンからの給金がなくなる話はなあなあになってしまった。それだけならまだしも、やや浮かれ気味の司之介(岡部たかし)によって、トキから援助を受けていたことを知らなかったタエ(北川景子)にまで真実が知らされることになってしまう。

 いきなりの三之丞(板垣李光人)の登場に、トキのことを大好きすぎるヘブンが嫉妬してかわいらしいなあと微笑ましく思う気持ちと今後が心配な気持ちが大渋滞を起こしたまま、第68話が幕を閉じてしまった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる