朝加真由美が支える『ばけばけ』の温度 タツ×勘右衛門(小日向文世)の“春”にも期待?

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の登場人物紹介に、朝加真由美の名を見つけて、思わず頷いた人も多いのではないだろうか。朝加が朝ドラに出演するのは2012年度後期の『純と愛』以来となるが、すでに『ばけばけ』では彼女が出てくるだけで場面が落ち着くような安定感を見せている。
朝加が演じる上野タツは、勘右衛門(小日向文世)がかわいがっている近所の子の祖母で、時々“天国長屋”にやってきて勘右衛門と他愛ない会話を交わす人物だ。物語の中心を動かす役ではない。だが朝ドラにとって、こうした寄り道こそが作品の温度になる。タツがふと口にする言葉やその場に立つだけの気配が、松江という土地の暮らしを連れてきて、主人公たちの日々を身近に感じさせてくれるのだ。

朝加は、いわゆるスター街道からキャリアを始めた俳優だ。1971年のミスセブンティーン準グランプリを経て、1973年に『ウルトラマンタロウ』(TBS系)のヒロイン・白鳥さおり役で一気に全国区へ。1980年の映画『純』では、今度はスクリーンの中心に立ち、作品の空気を背負う役どころを担った。同作は海外でも紹介され、若者の孤独や欲望を硬質に描く世界観のなかで、朝加の抑えた表情が際立っていた。そこで見えてくるのは、感情を大きく見せるのではなく、相手との距離感で人物を表現するうまさだ。拒絶でも受容でもない、曖昧な間に立ち続けることで、心の揺れを逆にくっきりと浮かび上がらせる。この時点で、朝加がのちに日常の名手として信頼されていく土台は、すでに出来上がっていたと言えるだろう。
ただ、朝加の魅力が一番伝わるのは、そこから先だ。『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系)をはじめ、近年の『ディア・ペイシェント~絆のカルテ~』(NHK総合)や『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系)、『束の間の一花』(日本テレビ系)、『青天を衝け』(NHK総合)などで彼女が担ってきたのは、物語の真ん中で騒がしく目立つ役ではない。むしろ、家族の中の年長者、近所の人、職場の先輩といった、登場するだけで場の空気が整う生活側の人物である。
“怪談”が人と人の距離をつなぐ『ばけばけ』の世界において、タツのような聞き上手の存在は貴重だ。だからこそ『ばけばけ』のタツという役は、朝加の強みが最も素直に活きる配置になっている。勘右衛門の話し相手として長屋に出入りし、他愛ないやり取りを重ねる場面は、ストーリーの大事件ではなくても、舞台となる松江の生活感をじわじわと増やしていく。主人公たちの恋や葛藤が動くほど、視聴者が帰ってこられる日常の足場が必要になる。その足場を、言葉と佇まいだけで作れるのが朝加真由美だ。

第43話では勘右衛門が近所の子どもたちからスキップ師匠と呼ばれ、タツの前で楽しそうにスキップを教えるシーンがあった。そこで彼は、思わず「いきなり春が訪れることもある」と口にする、つまり勘右衛門がタツに好意を持っていることが明かされる場面だ。頑固者が自分の変化を照れながら言葉にしてしまう瞬間が可笑しく、同時に温かさを感じるシーンだが、それ以降タツは同じ距離感で勘右衛門と接し、ただ隣に寄り添ってくれている。大事なのは、タツが何かを諭したり、結論を与えたりしないことだ。ただ隣で受け止める。その“受け止め役”がいるからこそ、勘右衛門は自分の変化を自分の言葉で認められるのだろう。
勘右衛門が抱えてきた“古い価値観”も、誰かに説教されて急に変わるわけではない。けれどタツとの何気ない会話が続くうちに、頑なさが少しずつゆるみ、言葉の選び方や態度が変わっていく。その変化を自然に見せるのが、朝加の強みだ。笑い方や相槌の間、立ち方の柔らかさだけで、相手が本音を出せる空気を作ってしまう。
『ばけばけ』では、タツが何気なく相槌を打ったり、笑って受け止めたりするだけで、勘右衛門は普段の頑固さをいったん脇に置き、素直な一面を見せている。2人の距離がこの先どう縮まっていくのか楽しみに見届けたい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK























