髙石あかりが作った新しいヒロイン像 『ばけばけ』が革新的な朝ドラとなっている理由

高石あかりが作った新しいヒロイン像

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』も第60話を終えて、放送も折り返しとなった。すっかり“おトキちゃん”となったヒロイン・髙石あかりだが、改めて、同作での奮闘ぶりを振り返ってみたい。

 髙石あかりが朝ドラのヒロインになることは、それほど大きな衝撃ではなかったかもしれない。映画『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)でその個性を世に知らしめてから、今年だけでも、日曜劇場『御上先生』(TBS系)、映画『ゴーストキラー』『夏の砂の上』、Netflixオリジナルドラマ『グラスハート』といった話題作に次々と出演してきた。今をときめく若手女優の一人であることは誰もが認識していたはずだ。髙石自身、朝ドラ出演を熱望していたと伝えられ、3回目のオーディションでヒロインを射止めたというから、順当に選ばれたと言って差し支えないだろう。

 ところで、『ばけばけ』という作品自体は、朝ドラとしてはかなり攻めたものになっている。いわゆる女性の成功譚ではないし、明るく爽やかで前向きな雰囲気でもない。テーマのひとつが怪談なので当然といえば当然だが、朝とは真逆の暗い画面が続き、主題歌も〈毎日世界が悪くなる〉から始まる不穏さだ。時代は明治初期。武士の世が終わって社会は混乱の中にあり、ヒロインの一家は没落の一途をたどる。初回は、その恨みを象徴するような「呪い」のシーンから始まった。これまでの朝ドラとは一線を画した作品であることは確かだろう。

 主人公・松野トキは中流武士の娘で、幼い頃は寺子屋のようなところに通っていたりと、なに不自由なく暮らしていた。しかし、父・司之介(岡部たかし)が不慣れな商売に失敗したことで運命が変わってしまう。そこそこのお嬢様だったはずが、学校にも行けなくなり、お金のために機織り娘となる。食うや食わずの生活の中で、母の語る怪談を心の拠り所にして生きている。それでも、武家の意地というかツテで、婿をもらうことができるのだが、その銀二郎(寛一郎)もあまりの貧乏さに逃げ出してしまう。

 トキは、そんな状況でもめげずに飄々としているが、どんなに真面目に頑張っても状況は良くならない。明るく生きようなどと思うより前に、生きていかれるかもわからない。そんな暮らしの中で、演じる髙石の表情も、どんどん達観したものになっていく。

 特に圧巻だったのは、銀二郎に逃げられたあと、養家も生家もともに困窮し、異人であるレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の女中になることを決めた時の目の表現だ。女中と言っても、羅紗緬と呼ばれる妾・現地妻のようなもの(後に誤解だとわかるが)。それでも家族のためにお給金をもらうしかないと、「人柱」になることをトキは決意する。一人ふらふらと海辺を歩きながら、なにもかも諦めたように虚空を見つめる表情は、髙石独特のハードボイルドな世界観が表現されていたように思う。

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