『ばけばけ』制作陣がこだわりぬいた“怪談”までの道筋 “本物過ぎる”伊武雅刀の抜擢秘話も

『ばけばけ』がこだわった“怪談”までの道筋

 髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。

 第12週では、いよいよトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の怪談にまつわる物語がスタート。きっかけは大雄寺の住職(伊武雅刀)が、寺に伝わる怪談として『水飴を買う女』を語ったことだった。だが、実際にハーンが最初に耳にした怪談が何だったのかが記された資料はなく、制作統括の橋爪國臣は「第12週は史実とオリジナルのミックスがたくさんある」と説明する。

「セツさんとハーンさんが大雄寺に行っているのは確かです。ただ、怪談を大雄寺で聞いたのか、もし聞いていたとしても、それが住職が語ったものなのかはまったくわかりませんでした。セツさんが女中を始めて、程なくして彼女が怪談を語れると知ったらしい、という話はあるんですが、そのあたりの詳しいことは載っていない。ですからドラマとして、“2人がどうやって怪談にたどり着いたのか”を描く必要がありました」

 そこで、脚本家・ふじきみつ彦と共に作り上げたのがこの展開。橋爪は「もともとハーンさんも、日本に来る前からアイルランドの妖精譚だったり、アメリカの不思議な話やホラー話をたくさん取材されていました。金縛りはドラマのオリジナルですが、そういったことに興味があった中で、日本の何かとパッとつながったらいいよね、という思いから作った話です」と、ヘブンと怪談の出会いの裏側を明かす。

 どのタイミングで、何の怪談を語るかは、プロット段階でふじきが決めることもあれば、橋爪ら制作スタッフが案を出すこともある。その中で、早い時期から話題に上がっていたのが『水飴を買う女』だったという。

「『水飴を買う女』は、実はドラマで描いているところの先に続きがあるんです。『拾われた赤子は、その後、町中ですくすく元気に育ちました』というような話なのですが、ハーンはそれを書かなかった。代わりに、原文にはない『母の愛は死よりも強し』という一文を付け加えているんです。そこにはハーンのオリジナリティというか、彼の生まれ育ちみたいなものが、とても強く反映されている。だからこそ、この怪談はいいところで出したいという思いがずっとありました」

 そんな『水飴を買う女』を語る大雄寺の住職を演じたのは伊武雅刀。橋爪は「住職が怪談を語るシーンは本当に短いんです。ただ、トキとヘブンがそれを聞いて、『これはすごい話だ』『面白い話だ』と納得できる人でなければ、2人に響かない。そこで、ベテランで説得力のある方にお願いしたいと考えました」とキャスティングを振り返る。

「怪談をうまくとうとうと語っても面白くないし、逆にナヨナヨと語っても面白くない。朴訥と語っているんだけど、なぜか説得力がある人って誰だろうと考えて、伊武さんしかいないと。そこで『シーン数は少ないんですが、いかがですか?』とご相談したところ、『とても大切な役なので、お受けしたい』と快諾してくださいました」

 実は、橋爪と伊武は本作で初タッグ。橋爪は「いろいろなことを達観されている感じがして、『これはこうなんだ』と訥々と伝えてくれる。その雰囲気で怪談を語られると、自然と納得してしまいます」と感嘆し、「ロケで撮影したんですが、スタッフも含めて、みんなが伊武さんの怪談に聞き入ってしまいました。本当に贅沢な時間だったと思います」と実感を込めた。

 怪談と同様に印象的だったのが、伊武の本物感あふれるお経シーン。橋爪は、住職役だと伝えた際の伊武の反応が強く印象に残っていると明かす。

「伊武さんに住職の役だとお話ししたら、最初に『宗派はどこですか?』と聞かれて(笑)。『今までたくさんのお経をしてきましたので、ある程度はわかります』とおっしゃっていました。法華宗は初めてとのことでしたが、先生に稽古をしていただいたところ、もう本物にしか見えないですよね。すごく説得力のあるシーンになったと思いますし、現場にいらした大雄寺の現住職も『いいですね』と、とても満足して帰られました」

 共通の趣味を通じて、心が通い始めたトキとヘブン。ここからどの場面でどんな怪談が語られるのか。2人の新たな展開からも目が離せない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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