『あんたが』青木柚が憎めない役を爽やかに好演 ミナトの表裏一体な危うさが浮き彫りに

『あんたが』青木柚が憎めない役を好演

 自分の理想を押し付けてくることもなく、ありのままの自分でいられる。自身の理想ばかり押し付けてきて悪気なく旧時代的な役割に囚われており、相手も自分のことも型に当てはめようとしてくるかつての勝男(竹内涼真)とは正反対の魅力を持つミナト(青木柚)。そんなミナトの表裏一体な危うさがより浮き彫りになった『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)第4話。

  決めつけや固定観念が皆無なミナトの前では、テキーラ好きを公言しても引かれないし、楽しく酔っ払える。いかにもなデート服に身を包まなくても自然体な自分を「かわいい」と言ってくれる。しかしながら、それは「付き合うとはこういうこと」「同棲するってことは将来を見据えてのこと」など、少なくとも鮎美(夏帆)と勝男の間では言葉にしなくとも共有できていたであろう相場観や価値観が、ミナトには全く通用しないということでもある。だからこそ、“さすがに取引先でもあるバーの常連客複数名と関係を持つのは……”というような考えも一切頭をよぎらずに、その時その瞬間のフィーリングを大切に、それに従うことを優先してきた結果が今のミナトだろう。そして、これこそが彼が “大量消費型恋愛体質”と言われる由縁でもあるのだろう。人との距離が近く、人たらしで、誰に対してもフラットに接する。故に、ミナトと元カノだけでなく、元カノ同士までいまだに仲良くもあるのだろう。

 鮎美も最初はミナトに手を引かれながら次々に自分の中の新しい扉を開いていく感覚が新鮮で、毎日驚きに満ちていたことだろう。“こんな私もいたのか!”と彼といることで出会える新たな自分自身にも喜びを感じていた部分もあったのかもしれない。勝男には到底見せられないような姿も受け入れてくれるミナトへの安心感もあったのではないだろうか。

 しかし、それは翻って型にはめてこようとしない分、これさえクリアしたらOKというチェックリストも存在せず、攻略しようとすると難しい。今この瞬間に嘘がないのはわかるが、あまりに執着がなく軽やかすぎて手触り感にはなんだか乏しいし、確かな繋がりが欲しくなってしまう。手が届きそうなのにどこか遠い。そんなミナトを前に、彼の前では無理しなくても等身大でいられたはずの鮎美の中で隠しきれない違和感が蓄積されていくのも仕方ないことだろう。南川(杏花)が言う通り「海老原さんと付き合ってた時の方が本当の鮎美さんじゃなかったのかもしれませんよ?」もまた真実だが、どうやら話はそう単純ではないらしい。

 オープンマインドなのにどうにも掴みきれない部分があり、悪気なく周囲を振り回してしまうミナトという憎めない存在を青木柚が爽やかに好演している。青木といえば『笑うマトリョーシカ』(TBS系)では、周囲の人間の支配欲をやけに刺激する主人公の学生時代を熱演していた。また、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)では、弱った幼なじみに付け込み、耳障りのいいことを囁きながらも自身に都合のいいように利用する裏の顔を持った青年役を演じていた。二面性を内包した役どころが得意な青木だからこそ、“チャラい”という一言とはまた違うミナトの魅力や魔力を見せてくれている。

 勝男から鮎美を託すような伝言を受け取ったミナトは「鮎ちゃんは誰かに任せなくて大丈夫。だって強いですから、僕らよりずっと」と真正面から伝えていた。鮎美の強さに当たり前に気づけるミナトは素敵だが、そんなミナトが鮎美の心を掻き乱しているのもまた事実なのが皮肉だ。

 そして、勝男の進歩には目を見張るものがある。自分の知らない笑顔を自分とはまるで正反対のタイプの男に向けている元カノの姿を見てもなお気持ちは変わらず、自身の足りなさや至らなさを省みることができるようになっていた。鮎美を忘れるために打ち込む趣味が出汁作りなところも。鮎美に初めて「大丈夫?」なんて様子を伺う言葉を掛けられたものの、それが他の男に傷付けられたタイミングという皮肉に、巻き戻せない時間の残酷さを感じながらも、どうしたって鮎美のことを放ってはおけないところも。いつの間にかそんなバカみたいに一途な勝男の逆転劇を願わずにはいられない自分がいる。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の画像

火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:夏帆、竹内涼真、中条あやみ、青木柚、前原瑞樹、サーヤ(ラランド)、楽駆、杏花
原作:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(ぶんか社『comicタント』連載)
脚本:安藤奎
演出:伊東祥宏、福田亮介、尾本克宏
プロデューサー:杉田彩佳、丸山いづみ
編成:関川友理
音楽:金子隆博
主題歌:This is LAST「シェイプシフター」(SDR)
制作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
公式X(旧Twitter):@antaga_tbs
公式 Instagram:antaga_tbs
公式TikTok:@antaga_tbs

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる