『ばけばけ』トミー・バストウが全身から漂わせる“老い” 「イノチ、スクナイ」にドキリ

穏やかな幸せの中に、ほんのりと寂しさが混じったNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第116話。ヘブン(トミー・バストウ)のリテラシーアシスタント・錦織(吉沢亮)の最後の大仕事が描かれた第23週の終わりから、この第24週の始まりまでに、作中では10年という月日が過ぎ去った。

ヘブンは教師として帝国大学に雇われ、トキ(髙石あかり)たち家族と東京の大久保で暮らしている。一時期はクビを覚悟していたクマ(夏目透羽)も無事に女中を続けられているようで一安心。なにせヘブンは月に400円も稼いでおり、屋敷も熊本時代からさらにパワーアップした印象を受ける。
最も変わったことと言えば、家族構成だろう。ヘブンとトキは2人目の子どもに恵まれ、家の中ではすっかり大きくなった長男・勘太の後をまだ小さい次男の勲が一生懸命ついていく。すでにヘブンから直々に英語教育を受けており、自分の名前を筆記体で書けるようになったトキが子どもたちに張り合う光景は見ていて微笑ましい。

東京への移住はトキの希望で、田舎暮らしのヘブンはやはり最初は「ジゴク!」と嫌がったようだ。しかし、東京生活も6年となるとすっかり馴染んでおり、ヘブンも含め家族はどこからどう見ても幸せそうに映る。ふと司之介(岡部たかし)が庭ではしゃぐ子どもたちを眺めながら、「なんだか、桃源郷のようじゃのう」とこぼす。熊本にいるときは暇で暇で仕方がなく、刺激を求めていた司之介が平穏を素直に享受できるようになったのは成熟した証拠だ。
季節が移り変わると花が枯れて落ちるように、どんなに元気な人間でも肉体は時とともに老いて、やがては朽ち果てる。勘右衛門(小日向文世)は天寿を全うし、ラストサムライらしい出で立ちで遺影の中に収められていた。司之介とフミ(池脇千鶴)もそれなりに年をとったが、2人よりも年齢の変化を感じさせたのがヘブンだ。特殊メイクの効果もあるが、トミー・バストウの身体表現が“老い”にリアリティを与える。運動のために途中で人力車を降り、歩いて通勤する背中がやけに心許なく見えて、ヘブンの「53サイ、イノチ、スクナイ」の一言に思わず胸がドキリとした。

ヘブンはイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)に出す手紙の中でも「次こそベストセラーを書くよ。最後の一冊になっても後悔しないものを」と、“死”を匂わせる。体調が芳しくないのと、自身の父が亡くなった年齢に近づいているのもあって、気弱になっているようだ。このタイミングで、ヘブンが大事にしていたブードゥー人形がなくなったのも何やら不吉である。中盤、仕事を終えて帰ってきたヘブンの髭に雪が積もっていると司之介に指摘される場面があった。しかし、辺りを見渡しても雪が降った形跡はない。その雪の正体はラストで明らかになった。いつものように家を出たヘブンだが、車夫の姿が見えなくなると引き返し、学校とは別の方向へ。向かった場所はミルクホール。髭についていたのは雪ではなく、ミルクの泡だったのだ。
松江で暮らしていた頃、山橋西洋料理店にこっそり通っていたことがトキにバレ、もう嘘はつかないと誓ったヘブン。だが、また性懲りもなく家族に隠し事をしている。もしかしたらヘブンはすでに大学講師をやめ、最後の執筆に取りかかっているのかもしれない。
大久保の屋敷からは、トキたちが天国町から見ていたような景色が望める。茜色に染まった街を見て、一日の終わりを実感するときのような寂しさが充満していた第116話。3月13日には、朝ドラ恒例のバトンタッチセレモニーが行われ、髙石あかりから、3月30日スタートの『風、薫る』で主演を務める見上愛と上坂樹里にバトンが手渡された。この物語も残すところ、あと2週だ。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2026/03/post-2333710.html
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK






















