『夫に間違いありません』がえぐり出す正しさの盲点 天童が見抜けなかった聖子のたくらみ

『夫に間違いありません』

 『夫に間違いありません』(カンテレ・フジテレビ系)が3月16日に第11話を迎えた。

 一樹(安田顕)を思い出の場所に呼び出した栄大(山﨑真斗)は、再会した父に自首を促す。家族を苦しめた一樹に怒りの感情が沸き、「俺のお父さんは1年前に死んだんだよ。消えろよ」など辛辣な言葉が口をついて出るが、その目には涙が浮かんでいた。そして、それを離れた場所から撮影する紗春(桜井ユキ)の姿があった。

 公園で聖子(松下奈緒)のスマホを拾った紗春は、聖子の店へ出向く。一樹が生きている証拠を突き付け、聖子が確認した遺体が幸雄(今里真)であると聞き出そうとした。保険金詐欺を見逃す代わりに紗春が要求したのは5千万円もの大金。紗春が幸雄にかけた保険金と同額だった。

 遺体の取り違えに端を発したドラマもいよいよ大詰め。登場人物の行動に勢いがついて、何が起こるかわからないスリルが漂う。冒頭から栄大がナイフを父親に向けたかと思うと、紗春が恐喝まがいの言葉を口にした。

 ぱっと見で常軌を逸しているような言動も、もとをたどると動機や感情の変遷があって、ひとつの行動にはきっかけとなる言葉があり、互いに不器用なキャッチボールを繰り返しながら、大きな物語が編まれるのは今作ならではだ。

 しばらく前から紗春はお金に困っていて、大家であるスナックのママ澄子(クノ真季子)から退去を迫られていたところで、聖子をゆする材料を手に入れた。聖子にとっても5千万円は大金だ。預金だけでは足りず、自宅を売ってお金を作らなければならない。そうなれば、いずみ(朝加真由美)を悲しませ、子どもたちの進学も諦めることになるだろう。苦渋の決断である。

 聖子と紗春は、保険金を返さなかったり、夫を川に突き落として溺死させるなど、人に言えないやましいところがあって秘密を共有する関係である。囚人のジレンマのように、互いに沈黙を貫くことで破滅を免れるはずだった。実際に、一度は相互不可侵を約束した。それを破ったのは、子どものためという正しさだった。

 紗春の態度が豹変したのは、児童相談所に通報されてからである。夫の連れ子の希美(磯村アメリ)への虐待を疑われ、紗春は裏切られたと思っただろう。聖子にしても、有無を言わさず介入する姿に強引さを感じ、一抹の危惧を抱いたことは事実だ。

 家族のためが実のところ言いわけでしかなくて、自分の過ちを認めたくなかったり、ごまかしてやりすごす口実になっていることは、聖子も紗春も同じである。反対にある種の正しさが溝を深めてしまい、かえって関係を悪化させることは、私たち自身も身に覚えがあるだろう。どちらも自分本位であることは同じだ。都合の良い嘘と都合の悪い真実は、似たもの同士かもしれない。

 そのことを象徴する台詞があった。編集長の山上(前川泰之)が天童(宮沢氷魚)に言った「お前みたいに不器用な記者は、どんなに考えても自分が正義だと信じたもんしか書けねえんだよ」は、筆者の胸に直角に刺さった。善悪が相対的と言いたいのではなくて、正義があると信じる心それ自体が盲点になるということ。正しさは相手を追い詰めるだけではなくて、自分自身の判断力も失わせることを言い当てていた。

 山上の言葉どおり、天童は聖子の魂胆を見抜けなかった。今作で、天童ほど純粋な人はいない。聖子に向かって警察で証言してほしいと伝えるのは、紗春の罪を明らかにするとともに希美を助けるためでもあった。それ自体は自分が書いた記事で訴えられて新聞社を辞めた天童らしい、ストレートな正義感の発露ではある。

 聖子が出した結論。警察に出頭せず自分と家族を守る。一樹に手を汚させてから縁を切る。それは正しさとかけ離れた生き方だ。そうするしかないと聖子が思ったのは、お腹にいる子どものことを考えたからかもしれない。自分一人の保身ではなく、家族を守りたい。その思いの行き着く先に何があるのだろうか。

『夫に間違いありません』の画像

夫に間違いありません

川で発見された遺体を、「行方不明になっている男性に間違いない」という親族の証言を受けて引き渡したが、後日その男性が帰宅したことで、“遺体の取り違え”が発覚したという衝撃的な事件に着想を得たサスペンスドラマ。

■放送情報
『夫に間違いありません』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:松下奈緒、桜井ユキ、宮沢氷魚、中村海人、松井玲奈、山﨑真斗、吉本実由、白宮みずほ、大朏岳優、二井景彪、磯村アメリ、前川泰之、朝加真由美、余貴美子、安田顕ほか
脚本:おかざきさとこ
演出:国本雅広、安里麻里、保坂昭一
プロデューサー:近藤匡、柴原祐一
音楽:桶狭間ありさ
主題歌:tuki.「コトノハ」(月面着陸計画)
制作協力:ダブ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/ottonimachigaiarimasen/
公式X(旧Twitter):@ottomachi_ktv
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