『ばけばけ』岡部たかしが“いい親父”っぷりを発揮 ヘブンに寄り添う「昔のわしじゃ」

『ばけばけ』(NHK総合)第117話では、“父と息子”の会話が描かれた。
朝の通勤時間、人力車を降りてヘブン(トミー・バストウ)が向かったのは、行きつけのミルクホールだった。ホットミルクを手に取り、ほっと息を吐き出した。このところ、ヘブンはどこか所在なさげである。いつものエネルギーが感じられない。その理由が第117話で明かされた。
場面は変わって、ニューヨーク。出版社の会議で、イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が熱弁をふるう。次に出版する本をヘブンに執筆させるよう提案するが、「彼はもう終わった作家」と却下されてしまった。ヘブン自身も健康面に不安があり、次の一冊が最後かもしれないと感じている。ともにベストセラーを生み出してきたイライザは、ヘブンの思いを汲んでいるのだろう。

木曜の朝。講義に行くはずの時間に、ヘブンはミルクホールにいた。イライザからの手紙を広げる。そこには、会議のいきさつと激励の言葉が記されていたと想像する。真剣なまなざしで見つめるヘブン。
沈黙の時間は不意の来店客によって破られた。第117話後半では、ヘブンと司之介(岡部たかし)の義理の親子の対面が描かれる。そうは言っても、ほぼ一方的に司之介が語り、ヘブンは聞く側であったが。
何を言いたいかよくわからない、司之介のとりとめのなさは平常運転である。「わしと同じ匂いがしてな」と唐突に切り出したのは、加齢臭ではなく、全身から発する空気を指しているようだ。もし元気だったら「オナジジャナイ」と否定するところを、黙って聞くのが今のヘブン。それくらい意気阻喪している。
「おぬしは昔のわしじゃ」
「息子が父から言われたくない言葉ランキング」があれば、確実に上位に入ると思われる台詞を投げかける司之介。真意を明かす前に「東京のミルクもうまい」とひと呼吸入れたのは、それだけの理由があった。

司之介の長所として、変に勘が鋭いところがある。司之介はわかってしまったのだ。ヘブンの気分とルーティンにあらわれた変化から、自信をなくしていると察した。現代ならともかく、古い価値観の社会で男性が自尊心を失うとしたら、仕事をおいてほかにない。
自分の話をしたのは、探りを入れる意味もあったかもしれない。無礼なようで相手をおもんぱかる司之介らしい配慮だ。「ちょうどおトキが生まれた頃じゃった」からの“立ち尽くした”エピソード。
「自分はなんも変わっちょらんのに、時代から、この世から『要らん、古い』、そげなこと言われるのはつらいもんでのう」
司之介がこれを話すのは、勇気が必要だったと思う。いまが幸せだから思い出したくないし、幸せだから言えることでもある。そうまでして、司之介はヘブンを元気づけたかったのだ。家族であり、自分の息子だと思うから。それが「昔のわし」の意味するところである。

ヘブンはようやく自分の身に起こったことを話すことができた。東京帝国大学をクビになった。自分は古くて必要のない人間だと言われた。「オワリニンゲン」なのだと。ヘブンがしたためていた手紙は、仕事の継続を依頼するものだった可能性がある。
愛する家族を抱えて立ち尽くすしかない心境が、司之介には痛いほど伝わったはずだ。はたから見ると傷をなめ合っているように見えるかもしれない。立ち尽くしているだけのようだが、実は、向かい風に耐えながら倒れずに立っているという事実。そのことを知る司之介だった。
武士をやめて、商売に失敗した司之介が、心機一転働き始めたのが牛乳屋の配達だった。おかげで借金を返済し、娘は良縁にめぐまれ、健康で孫の顔を見ることができた。ヘブンがミルクホールに入り浸っていたのも偶然ではないのだろう。牛乳が取りもつ親子の絆に、観ているこちらの気持ちも温かくなった。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK






















