『じゃあ、あんたが作ってみろよ』になぜ誰もが夢中なのか “今”必要な“過去”からの解放

『あんたが』になぜ誰もが夢中なのか

 火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)を面白いと感じずにはいられないのは、気づかないうちに絡めとられていた諸々の「過去」の呪縛から、私たちを解き放ってくれそうなドラマだからではないだろうか。

 劇中ドラマである、勝男(竹内涼真)が好きでよく観ているトレンディドラマ『フォーエバーラブは東京で』が何度も流れる一方で、第1話冒頭の勝男と鮎美(夏帆)の別れ話に至るまでの過程をそれぞれの視点から振り返っていくという第1話・第2話の序盤の演出は、「配信ドラマ、あるいはサブスクでドラマを観る時によく見る各話紹介のページを模した“彼と彼女のそれまでの日々”を素早くスクロールし“数話前の回”から再生する」という「現代のドラマの視聴方法」を意識した作りになっている。

 また、勝男にとってのバイブル的存在である「トレンディドラマ」と、鮎美にとっての「ファッション雑誌」は同じだ。学生時代からせっせと雑誌にマーカーで線を引き「モテ」の研究に勤しんできた鮎美が、第2話で美容師の渚(サーヤ)と出会い「鮎美さんの“普通”ってなんですか?」「あゆめろの好きな食べ物って何?」と問いかけられ、恋人に献身的になり過ぎたあまり自分を見失っていたことに気づく。そんな時、彼女の目に飛び込んできたのはファッション雑誌の表紙の「最高の私」「私らしく」という文言だった。

 気づけば女性ファッション誌もまた、「モテ」の追及の時代から「自分らしさ」の追及の時代へとシフトしている。つまりは本作が描いているのはどちらも「時代は確かに変わったのだけれど、気づいたら変わらないままそこにいた」彼と彼女の物語なのである。そして恐らくこれは、かつて「こうあるべき」とされていたジェンダーロールに縛られて本当の自分を、あるいは相手の本質を見つめることができなくなってしまったために、危うく互いを憎み合ってしまいそうな人々が、人間同士、ちゃんと向き合うためのドラマなのではないか。

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は谷口奈津子による同名コミック(ぶんか社「comicタント」連載)を原作に、安藤奎が脚本を手掛けた作品だ。本作を観ていると、ここ数年間で放送された「今」を生きる人々の姿を描いた優れたドラマの登場人物たちの姿が重なってくる。

 例えば、同じく谷口奈津子原作(新潮社)で、2023年に放送された『今夜すきやきだよ』(テレ東系)。蓮佛美沙子とトリンドル玲奈が演じる女性2人の共同生活を通して、彼女たちや周りの人々が直面する様々な生きづらさを見つめることで、共に乗り越えようとする作品だった。

 また、本作において、勝男が第1話で、当初馬鹿にしていた「男2人でピクニック」を後輩の白崎(前原瑞樹)とともに「素麺」で実践してみることで、心底嬉しそうな顔をする姿は、今年の冬期ドラマ『晩餐ブルース』(テレ東系)において、井之脇海、金子大地、草川拓弥が演じる3人の男性が一緒に料理し夜食を食べる「晩餐活動」で心を満たしていく姿に重なる。

 第3話で勝男と椿(中条あやみ)の間に芽生えた友情と、それに対して生じた「人類のもう半分も友達になれる可能性があるって知った」から嬉しいのだという感情は、前クールの『ちはやふるーめぐりー』(日本テレビ系)や『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)が、恋愛ではなく友情を通して青春の素晴らしさを描いたことで、視聴者が感じずにはいられなかった実感と同じだ。

 テレビドラマにゆっくりと丁寧に蓄積されていった、人々が生きる風通しの良い「今」の光景が、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)など「時代」を描く優れた社会派ドラマを多く手掛けてきた火曜10時枠で炸裂している。そんな印象がある。

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