『この夏の星を見る』“コロナ禍世代”は共感必至 桜田ひよりが体現した“青春のまばゆさ”

『この夏の星を見る』が描いた青春のまばゆさ

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。今週は、天体好きが高じて国立天文台野辺山を訪れたこともある柴が、映画『この夏の星を見る』をプッシュします。

『この夏の星を見る』

 放課後になると、聞こえてくる吹奏楽の練習の音。グラウンドに響く野球部のかけ声。“学校”を象徴する存在はいくらでもあるはずなのに、卒業してから思い出すのは、不思議と部活に関連するものばかりだ。私自身はというと、高校時代は演劇部に所属しており、大会が近づくとよく龍角散のど飴を舐めていた。今でもあの強烈なハッカのにおいを嗅ぐと、ノスタルジーに浸りたくなってしまう。

 本作では、そんな“部活”を基軸に、学生たちの青春が描かれている。冒頭で繰り広げられるのは、溪本亜紗(桜田ひより)と飯塚凛久(水沢林太郎)が天文部に入部する一幕。互いにそれぞれの読んでいる雑誌が天体や宇宙飛行士に関連したものであると気づくやいなや、無言で握手を交わす。何も語らずとも、同好の士に出会えた喜びがひしひしと伝わる名シーンであった。先輩たちの熱烈な歓迎を受けた亜紗たちは、凛久の夢であったナスミス式望遠鏡の制作を開始する。製図用紙を広げ、望遠鏡作りに取り組む天文部の部員たち。画面いっぱいに瑞々しいエネルギーが満ち溢れ、彼らがペンを走らせる高揚感に、観ているこちらも自ずと胸が高鳴る。

 だが、テレビに表示されたニュース速報とともに、雰囲気が一転する。新型コロナウイルスの襲来だ。未知の存在が日常に侵入し、親しい友人との仲でさえ分断していく様子が映し出される。友達とじゃれ合う喜びや、ご飯を食べながら喋る楽しみが奪われ、マスクによって人の表情すらも読み取れなくなってしまったあの日々。思わず、当時感じた息苦しさや疎外感が呼び起こされてしまった。

 「濃厚接触者」や「黙食」。今ではやや懐かしさすら感じるワードが続出し、あれほど鮮やかだった彼らの学生生活に暗雲が立ち込める。部活動や友人と会うことも制限された彼らは、怒りや無力感に苛まれるようになる。無理もない話だ。緊急事態宣言が発令されたとき、私はちょうど高校生だったが、漠然とした閉塞感に覆われ、自室でぼんやりしていたのを思い出した。

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