『べらぼう』“一行の史実”を類稀なドラマにする森下佳子の脚本 “穿ちの精神”が蔦重の要に

『べらぼう』“穿ちの精神”が蔦重の要に

 これまで、ことあるごとに、何度も「この、人たらし!」と言いたくなってしまった蔦重の振る舞いも、さすがにていには響かない。けれども、彼が「天性の人たらし」であり、さらにはその才を存分に活かして、やがて江戸きっての「名編集者」となっていく理由は、彼が「人たらし」だからではなく、その内実に「穿ち(うがち)」の精神があるからなのかもしれない。

 江戸時代の洒落本や黄表紙における技巧のひとつとされた「穿ち」。それは、人情の機微や世の中の隠れた事実を指摘し表現する技巧であったという。自らの出自を卑下することなく、世にはびこるさまざまな慣習や偏見にとらわれることなく、人間や物事の本質を見抜き、それを言葉にしてしまうこと。もちろん、丸屋の女将・ていへの「共感」が、「一緒に本屋をやりませんか」から「俺と一緒になるってなぁどうです」に変わるところも蔦重らしいのだが、その言葉は徐々に――何よりも自身の言葉を裏打ちする、彼の一貫した「行動力」によって、ていの心にじわじわと響いてゆくのだった。

 思い返せば蔦重は、ずっとそうやって、人々の心を動かしてきたではなかったか。その類まれなる行動力によって。そしてこの第25回では、まさしく前半戦のクライマックスとも呼ぶべき、珠玉のシーンが描き出されるようだ。ゆめゆめ、お観逃しのないように。

井上祐貴が松平定信役に 城桧吏、藤間爽子、又吉直樹ら『べらぼう』新キャスト発表

毎週日曜日に放送されているNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の新キャストが発表された。  本作は、“江戸のメディア…

 ところで、ちょうど先日発表された、今後登場予定の人物たちの一覧を見るに、成長した松平定信(井上祐貴)をはじめ、家治(眞島秀和)亡き後11代将軍となる徳川家斉(城桧吏)、水戸藩主・徳川治保(奥野瑛太)、尾張藩主・徳川宗睦(榎本孝明)など、序盤からことあるごとに不穏な動きを見せて来た一橋治済(生田斗真)に与する人々(家斉は治済の嫡男だ)が、思いのほか数多くラインナップされていることに驚いた。彼らの共通の思いは「反・田沼」だ。これから描き出される後半戦では、いよいよ江戸城内の政争が激しくなっていくのだろう。そしてそれは、市中の人々――とりわけ、蔦重を中心とした戯作者や絵師、狂歌師など、江戸の出版関係者たちの運命を大きく左右することになるのだろう。いずれにせよ、天明3年の夏、浅間山の大噴火から、事態は(そして時代は)劇的に動き始める。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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