芳根京子×本田響矢『波うららかに、めおと日和』はなぜ尊い? ”丁寧な対人関係”が肝に

『めおと日和』の尊さの鍵は“アンチコスパ”

 瀧昌(本田響矢)の帰りが待ちきれないなつ美(芳根京子)は門の外からピョンと飛び出し、また別の日には酔って帰った瀧昌の胸をポカポカポカと叩いて玄関から追い出した――。

 『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)でとりわけ目を引くのは、オノマトペが頭をよぎる演技だ。漫画なら間違いなくそのコマには「ピョン!」「ポカポカポカッ」と書き込まれたはずである。

 恋に不慣れなふたりだ。思ったことのいくらも口にしない。これを補うモノローグや、生瀬勝久演じる活動弁士の語りに勝るとも劣らない効果を期待して採り入れたのが、くだんの演技なのだろう。

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「あと2話? そんなこと信じたくない!」  木曜日の夜に日々の癒しとして『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)を視聴して…

 『波うららかに、めおと日和』には日本の原風景が広がる。街並みや家財は言うまでもなく、心のありようまで。手が触れるだけで照れ、一張羅に身を包んだお互いに見惚れ、幼馴染の存在を知ってやきもちを焼く。そこに尊さを感じるのはノスタルジック以外のなにものでもない。そんな世界に没入させようと思えば、やはり漫画を彷彿とするタッチがふさわしい。原風景に立ち込める靄のように、物語の背景として作用する書き割りなのだ。

 この書き割りは夫唱婦随を地でいく時代の緩衝材としても機能する。

 昭和11年という設定上、女性は半歩下がってついていくという社会通念が下敷きになっている。実際、なつ美はいつだって瀧昌の後ろに控えているし、「瀧昌様」と呼びかける(瀧昌はさん付けだ)。初対面の日に瀧昌に調理道具を運ばせてしまったなつ美は慌てふためくが、いまなら体力のある男が受け持ってしかるべき作業である。

 もちろん、観るものを不快にさせないのは、そのような下敷きを敷きつつ、精一杯誠実であろうと努める人間として瀧昌を描くからだ。出会って間もないふたりにとってはまずはお互いを知ることが大切だから、と初夜を先延ばしにしたのには参った。

 進歩的な女性の存在も利いている。職業婦人の先駆けだったタイピストとして働く芙美子(山本舞香)は視聴者の気持ちを代弁する役回りを担っている。酒の付き合いも仕事のうちという、謝っているようで謝っていない瀧昌の物言いに対し、芙美子は「仕事を盾にするのはいささか卑怯では」と横槍を入れる。

 人物造形や配役の妙も見逃すことはできないけれど、オノマトペを演技に落とし込むひと手間があったからこそ、見え方が違ったのだと思う。

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