奥野瑛太は作品の“ムードメーカー”だ “鬼軍曹”神野万蔵が『あんぱん』に与える緊迫感

奥野瑛太が『あんぱん』に与える緊迫感

 とはいえこうして『あんぱん』が視聴者に与える印象をガラリと変えていくには、何よりも導入部が重要になってくる。いきなり暴力シーンを描くのではなく、いまから過酷な状況がはじまることをそれとなく示す必要があると思うのだ。“神野万蔵=奥野瑛太”はこの導入部をつくることにおいて、その要ともなる役割を果たした。これから生活をともにしていく班のメンバーに対して嵩たちに挨拶をするように促し、「声が小さい、腹から声を出せ」と怒鳴ったのである。続いて馬場力(板橋駿谷)から暴力を振るわれる。このごく短いシーンの流れの中で、ここではどんな理不尽なことだって起こるのだと誰もが理解したのではないだろうか。油断していた私たち視聴者も、当の嵩たちもだ。

 奥野の厳しいパフォーマンスは、『あんぱん』に流れる空気を変えた。もちろん、それに応える古年兵役の板橋たちや、理不尽な指導を受ける側である北村たちの演技があってこそ成立するものであるのは言うまでもない。が、このムードの要になっているのは間違いなく奥野だろう。

 この奥野といえば、7月から『「桐島です」』が公開され、9月には『宝島』が公開されるように、大作映画だけでなく、強いメッセージ性を持った良質なインディペンデント作品でも愛される俳優だ。名匠からだけでなく、気鋭監督たちからの信頼も厚い。「朝ドラ」への登場は『エール』(2020年度前期/NHK総合)に続いて2度目であり、同作でも軍人の鏑木智彦を演じていたことが記憶に新しい。が、『あんぱん』の神野はまったく違うタイプのキャラクターのようだ。ムードをつくることができる俳優なのだから、これからさらに重要なポジションを築いていくのではないだろうか。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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