大九明子が描く“むき出しの存在感” 『今日空』まで持ち続けている作家性

傑作! 傑作!! 傑作!!! 途方もない映画が登場した。大九明子監督の最新作『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(2025年、以下『今日空』)は、間違いなく本年ベストの作品となるだろう。まだ観賞されていない方はとるものもとりあえずただちに劇場へと駆けつけられたい。

主人公は、萩原利久演じる大学2年生の小西徹。祖母を亡くしたショックから大学を半年近く休んでいた彼だったが、復学した直後から胸ときめかせる出会いをさっそく果たす。授業が終われば勢いよく階段を下り、思いっきり扉を開けてひとり颯爽と退場してゆく桜田花(河合優実)のすがたに心奪われているのだ。映画の前半は、この2人の関係性が思わぬ偶然の連鎖からどんどんと深まってゆく絵空事の極致を巧みな編集で違和感なく見せてゆく。ひょんなことから夜道でばったりと遭遇した2人が駅の目の前で話し合い、「じゃあね」と言って別れ一瞬走行中の電車がインサートされたかと思うと、車内にいる花に場面は切り替わる。そこから徐々にカメラが引いて徹も結局同じ電車に乗ったことが示される場面など、ドキドキする見事な展開だ。しかしいっぽう、徹のバイト先の同僚さっちゃん(伊東蒼)も彼のことを前からずっと気になっている様子で……。

この映画の最大のポイントは、まずさっちゃんの胸に秘めた感情が表出される長い長い告白シーンにある。画面にはわずかしか映っていないが、雨のうっすらとけぶるなか、溜め込んでいた徹への好意を呟くように吐き出すこの場面の緊張感はただごとではない。長回しでさっちゃんを捉え続ける画面が放つ“むきだしの存在感”に観客は思わず息を止め続けるしかなく、しかもそれが限界を越えそうな絶妙なタイミングでカメラはぱっと徹のほうへと差し向けられる。見事に完璧な映画の呼吸だ。しかし徹の心ここにあらずといったあまりに残酷な表情がわれわれの胸を突く。さっちゃんはもうたまらないといった面持ちで相手に向かって問いかける。
「小西君、私の名前知ってるん? なんでさっちゃんっていうか知ってんの?」
徹はそもそもさっちゃんの本名すら知らなかったのだ。




















