河合優実×細田佳央太だから成立した濃密な愛の形 『あんぱん』で噛みしめる“娯楽”の醍醐味

朝ドラことNHK連続テレビ小説『あんぱん』第6週「くるしむのか愛するのか」(演出:野口雄大)は蘭子(河合優実)と豪(細田佳央太)週。以前からひそかにお互い気になりながら言い出せないふたりだったが、皮肉にも、豪に赤紙が来たことで互いの気持ちを確かめ合うことになった。
ときに1937年。第二次世界大戦へと拡大していく火種である盧溝橋事件が起こった。これが日中戦争に繋がり、若い男性たちは戦地に出向いていく。

このときはまださほど国民が思い詰めた感じではない。豪の壮行会のとき、すぐに戦争は終わるだろう、しかも日本の勝利で、と楽観視している者もいるくらいだ。
状況ははっきりわからないながら、国民は、お国のために戦地に行くことを誉と捉え、「おめでとうございます」と言う。蘭子は内心、豪が戦地に行くことに不安を感じながら、やっぱり「おめでとうございます」と送ろうとしていた。
ただひとり、屋村(阿部サダヲ)だけは違う。
「戦争なんてろくなもんじゃねえよ」「勇ましく戦おうなんて思うな。逃げて逃げて逃げまわるんだ。戦争なんていいやつから死んでくんだからな」「勇ましく戦おうなんて思うな。逃げて逃げて逃げまわるんだ」「勝とうが負けようが兵隊は虫けらみたいに死ぬんだよ」とことごとく戦争を悪く言う。これだけ言うにはきっと何らかの根拠があるのだろう。
逃げる方法――怪我したり、醤油を飲みすぎたり、川に溺れたりしたふりしたり。そういうことを屋村は勧めるが、豪は生真面目に戦地に向かうことにする。

壮行会の夜、よさこい節を朝田三姉妹が歌って、宴もたけなわとなった頃、豪は黙って朝田家を出ていく。それに気づいて追いかける蘭子。
「きっと戻ってきて」「きっとやのうて絶対や」と精一杯の思いを伝えると、これまで、蘭子がどれだけ期待しても、素っ気ないことしか言わないできた豪が、ついに自ら「戻ってきたらわしの嫁になってください」と言う。ここに趣がある。
現代の価値観だと、女性から告白したっていいじゃないかというのがあると思うが、この時代、まだまだ男性に引っ張っていってほしいという価値観があっただろう。のぶ(今田美桜)だったら、自分から言ってしまいそうだが、蘭子は決して自分から言わない。豪の言葉を待ち続けた。それがなんだかいじらしい。
豪も師匠の家の娘に対して遠慮もあったであろう。自分から言えずにいたけれど、もう二度と会えないかと思ったら、言わずにはいられなくなったのだと思う。そういう意味で、屋村の執拗な戦争批判は役に立ったのではないか。
若い男性が戦地に行くのは当たり前、むしろ名誉なこと。日本国民は日本のために誠心誠意働くということが最適解とされていた時代に、「ほんとうにそうか?」と考える機会を屋村は与えたといえるだろう。
待っていた結果、最高にうれしい言葉をもらった蘭子だが、すぐに食いつかない(言い方)。

一瞬、うれしいが、照れたように首をかしげ髪に手をやってしばし間を置く。「好きです」を飛び越して「嫁になってください」だから、どう受け止めようか、ほんとにどうしようとなったのかもしれない。もっともこの時代は「好き」=「結婚」と直結していたかもしれないが。
「うち おまさんのこと うんと好きちや」
耐えに耐えたすえ絞り出した「好きちや」は熟成されて濃密であった。
さらに、そこに羽多子(江口のりこ)が駆けつける。着替えを渡して、「今夜はもんてこんでええ」とふたりを送り出す。結婚前のふたりを、親がふたりきりにさせるというのがなかなか太っ腹である。さすが羽多子。蘭子が女性から求婚しなかった代わりに、羽多子が暗黙のルールのようなものを打ち破った。
だが、そもそも何が正しくて、正しくないのだろう。その基準は明確ではない。





















