『小市民シリーズ』小佐内さんの“爆弾”を見逃すな 羊宮妃那の演技力に感じ入る

小佐内というキャラが第3話で露わにした“本性“がここで働いたのだとしたら、気になるのはなぜ付き合っていたはずの瓜野にそれが向かったのかという点だ。第17話「ふたたびの秋」で小鳩によって解き明かされるのがその答え。観たら誰もが驚き、そして第13話「とまどう春」を観返さずにはいられなくだろう。
そこでは、放課後の遅くに新聞部の部室を出た瓜野が、夕陽の差し込む廊下で待っていた小佐内と出会うシーンが描かれた。小佐内は遅くまで彼氏を待つくらいに瓜野を気に入っていたのかと思いたくなるが、直後に繰り広げられるあるやりとりを境にして、一気に不穏な空気が漂い始めることに改めて気付く。
詳細は観て確かめてもらうとして、TVアニメはここで映像面を細工することで不穏さを倍加させている。一連のシークエンスでは、廊下には窓から夕陽が差し込んでいて、小佐内はその中に立っているが、瓜野はずっと陰の中にいる。ふたりの関係が微笑ましいカップルといったものではなさそうだと感じさせる演出だ。
原作では、小佐内は瓜野を残して帰っていこうとして、その際に1枚のレシートを瓜野に渡す。「ほとんど晴れやかと言ってもいいほどに、笑っていた」小佐内が、くるりと身を翻しながら肩越しにレシートを落とし、それを瓜野が拾っている間に小佐内はいなくなる。これがTVアニメでは、小佐内は瓜野と向き合ったまま手からレシートを落とし、拾おうとする瓜野を微笑みながら見下ろす場面でシークエンスが終わる。
第3話「ハンプティ・ダンプティ」でも示されたように、小佐内が笑うときにはそこに何かがうごめいている。背の高い瓜野をずっと見上げていた小佐内が、見下ろすかたちになったことも、世界がガチャリと世界が変わったことを暗示する。その真相が、第16話での衝撃を経て第17話で満天下に示される。前週以上の衝撃が世界に走るだろう。
原作を読んで展開を知っている者には、“あのセリフ”がどのようなトーンで放たれるのかが気になるだろう。そして、小佐内という存在の底知れ無さを知り、そんなキャラを演じてのけた羊宮妃那の凄さに感じ入るだろう。
この後、TVアニメは原作の『冬期限定ボンボンショコラ事件』に当たるエピソードが描かれることになる。大学受験を控えた小鳩の身に起こった重大なアクシデントの真相究明に絡んで、中学時代の小鳩と小佐内が直面した事態が描かれる。そのときの手痛い経験から「小市民」であろうと決めた小鳩と小佐内が、高校で「小市民」で収まらない言動を繰り広げ、挙げ句に一度は崩壊した関係を取り戻した先で謎解きに挑んだ果て。共に牽制し合うような関係から、補うような関係になっていくふたりの将来に、強く興味を誘われるだろう。
■放送情報
『小市民シリーズ』
テレビ朝日系全国24局ネット“NUMAnimation”枠ほかにて、毎週土曜25:30〜放送
各配信プラットフォームにて配信
キャスト:梅田修一朗(小鳩常悟朗役)、羊宮妃那(小佐内ゆき役)、古川慎(堂島健吾役)、上西哲平(瓜野高彦役)、宮本侑芽(仲丸十希子役)、山下誠一郎(氷谷優人役)
原作:米澤穂信(創元推理文庫 刊)
監督:神戸守
シリーズ構成:大野敏哉
キャラクターデザイン:斎藤敦史
サブキャラクターデザイン・総作画監督:具志堅眞由
色彩設計:秋元由紀
美術監督:伊藤聖(スタジオARA)
美術設定:青木智由紀 イノセユキエ
撮影監督:塩川智幸(T2studio)
CGディレクター:越田祐史
編集:松原理恵
音楽:小畑貴裕
音響監督:清水勝則/八木沼智彦
音響効果:八十正太
アニメーションプロデューサー:渡部正和
ラインプロデューサー:荒尾匠
アニメーション制作:ラパントラック
OPテーマ:ヨルシカ「火星人」
EDテーマ:やなぎなぎ「SugaRiddle」
Ⓒ米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会
公式サイト:https://shoshimin-anime.com/
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