『九龍ジェネリックロマンス』鯨井令子のキャスティングの妙 白石晴香&山口由里子の対比

『九龍ジェネリックロマンス』鯨井令子の対比

 知らない場所なのに、不思議と懐かしい。かつて香港に実在した巨大スラム街・九龍城砦を思わせる“九龍”こと第二九龍寨城を舞台に、不動産屋で働く男女のロマンスを描く『九龍ジェネリックロマンス』。原作は『恋は雨上がりのように』の眉月じゅん。柔らかく繊細なタッチと、平成的な情緒をまとった空気感が、作品全体にノスタルジーを漂わせている。

 九龍で働くOL・鯨井令子は、先輩社員・工藤発に少しずつ惹かれていく。工藤もまた鯨井に好意を寄せているのか、自然と近づいていくふたりの関係。しかしある日、鯨井は工藤に自分と瓜二つの婚約者がいたことを知る。名前もホクロの位置も同じという、ただの偶然とは思えない存在を機に、自分の過去の記憶が曖昧であることに気づいた鯨井は、もう一人の“鯨井令子”と、自身の正体を探り始める。

 そんな“ふたりの鯨井令子”の謎が物語の核心となっていく本作の構造を、より際立たせる演出のひとつが声優のキャスティングだ。

『九龍ジェネリックロマンス』TVアニメ第1弾PV 2025年4月放送決定

 本作では「鯨井A」と「鯨井B」、それぞれに異なる声優が起用されている。アニメでは幼少期の回想や記憶喪失といった設定を同じ役者が演じ分けるケースも多い中、本作ではあえて「声を分ける」ことで、ふたりの鯨井の存在そのものに意味を持たせているのではないかと推測できる。

 記憶を失った“レコぽん”こと鯨井Aを演じるのは、白石晴香。『姫様“拷問”の時間です』の姫や『ゴールデンカムイ』のアシリパ、『妃教育から逃げたい私』のレティシアなど、これまで彼女が演じてきたのは、ギャグ要素も交えながら、表情豊かに可愛さを見せる役どころが多かった印象だ。そんな白石が本作で演じる令子は、ぐっと大人びた存在である。本作ではユーモアを抑えた静かな演技が印象的で、上品な熱を感じさせるようなこれまでとは違う白石の一面を楽しむことができる。

 第1話、工藤への恋心を自覚するシーンでの「私、この人のことが好きだ」という一言も、感情をあらわにするのではなく、落ち着いたトーンで静かに語られる。その抑えた表現がかえって余韻を生み、控えめな鯨井Aの中に確かに存在する想いとして、鯨井Bとの違いを際立たせている。ちなみに作中では、製作陣の遊び心として、街中の一角に白石晴香本人を模したポスターが登場するシーンもあるので、ぜひ見つけてみてほしい。

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