『サンダーボルツ*』『ターミネーター2』 “主人公化”するヴィランが象徴する善悪の彼岸

“主人公化”ヴィランが象徴する善悪の彼岸

 映画史を振り返ると、観客の印象に強く残るのは必ずしもヒーローだとは限らない。時に、ヒーロー以上の存在感を放つのがヴィランたちだ。本来、彼らは主人公の前に立ちはだかる“敵”として登場するが、単なる悪役にとどまらず、物語の軸となる機会が増えているようだ。

ヴィランから味方へ 転身がもたらすインパクト

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現代映画──とくにハリウッド映画界では、知名度の高いヴィラン(悪役)を主役に昇格させ、彼らの側に寄り添ったスピンオフ映画の製作が…

 ヒーロー以上の存在感を放つヴィランといえば、昔の作品になるが『ターミネーター』シリーズが思い浮かぶ。第1作ではT-800が人類の脅威として描かれたが、続編の『ターミネーター2』ではジョン・コナーを守る存在として変貌を遂げ、この大胆な転換に多くのファンが驚いたのではないだろうか。それは、『ワイルド・スピード』シリーズのデッカード・ショウについても同じことが言える。かつて、彼は主人公ドミニクたちの敵として登場したが、今や“ファミリー”の一員として共に戦っている。

『ターミネーター2』©1991 - STUDIOCANAL - Tous Droits Reserves

 そしてロキ。『マイティ・ソー』シリーズで“悪戯の神”として登場した彼は、どこか憎めない魅力とカリスマ性を備えていて、ついにはスピンオフドラマ『ロキ』の主役を務めるまでになった。彼が単なるヴィランの枠に縛られないことは、多くの観客が感じ取っているに違いない。

 こうしたキャラクターたちに共通するのは、「かつての敵が思いがけず味方になる」という意外性だ。そして、その“共闘”がもたらすスリルやドラマの厚みが、物語に奥行きを与える。個人的に、「相手を信頼しきれないが力を合わせるしかない」という状況は、かなりドラマチックで引き込まれる。T-800とジョン、ショウとドミニクたちのように、初めはぎこちなくても、少しずつ築かれていく信頼関係には熱いものを感じるからだ。

 また、元敵だからこそ持っている異なる視点や強みが、ストーリーに新しい風を吹き込む点も見逃せない。戦闘力や情報の精通、目的への執着など、味方サイドにはない要素が加わることで、物語の展開に新たな可能性が生まれるのも大きなポイントだ。

 さらに、ヴィランが持つ独特の魅力も、彼らが主人公に昇格する要因の一つだと言える。目的のためには手段を選ばない冷酷さや時に見せる人間味、そして何よりも強烈な個性は、ありきたりなヒーロー像とは一線を画して観客の心を掴んで離さない。ロキの何をしでかすか分からない危ういキャラクター像や、ショウの持つアウトローとしてのカリスマ性は、正義の味方にはない強烈な引力がある。

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ヒーローとヴィランの境界線 揺らぎが示す時代性

 このようにヴィランの“主人公化”が進む背景には、善と悪の境界が曖昧になりつつある時代の空気も関係しているのかもしれない。そもそも「絶対的な悪」など存在せず、立場や視点が変われば正義の基準も変わり、悪とされた者にも必ず理由や背景があるからだ。観客も、単純な勧善懲悪では満足できなくなってきている気がする。だからこそ、過去の過ちを抱えながらも新たな目的のために行動するヴィランたちに、つい共感してしまうのではないだろうか。そこには贖罪や再生といった普遍的なテーマが息づいていて、そういった要素が観客に深い感情を呼び起こすのだ。

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 シリーズ化やスピンオフ展開が当たり前になった今、ヴィランが主役になるのも自然な流れだと言える。長期シリーズでは新たな切り口やキャラクターの掘り下げが求められるため、人気ヴィランの過去や内面を描くことは、ファンにとっても製作側にとっても魅力的な選択肢となるはずだ。T-800の異なるモデルを登場させたり、ショウの過去や家族関係が掘り下げられたりすることで、シリーズは新たな魅力を発揮することが出来る。

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