小野寺系の「2025年 年間ベスト映画TOP10」 変容する節目を迎えている“映画”という文化

小野寺系の2025年ベスト映画TOP10

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2025年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2025年に日本で公開・配信された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第6回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部)

1. 『ロスト・バス』
2. 『ワン・バトル・アフター・アナザー』
3. 『ブラックバッグ』
4. 『ニッケル・ボーイズ』
5. 『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』
6. 『ジュラシック・ワールド/復活の大地』
7. 『SKINAMARINK/スキナマリンク』
8. 『紅楼夢(こうろうむ)〜運命に引き裂かれた愛〜』
9. 『罪人たち』
10. 『アイム・スティル・ヒア』

 戦争や排外など、罪のない人々が弾圧され脅威を与えられる暗い現実が続く世の中。状況は刻々と変化しつつも、そういった構図自体は大きく動くことがなく、日本の政治状況のように、部分的には悪化すらしているというのが、2025年の印象だ。ここで選んだ、『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』や『ニッケル・ボーイズ』、『アイム・スティル・ヒア』などのタイトルは、そんな理不尽といえる不均衡に対する心の叫びだといえる。

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 そんないま、つくづく思うのは、「映画」を楽しむのには平和や余裕が前提であるということ。戦地や被災地などでの上映ボランティアなどには頭が下がるし、筆者も東日本大震災当時に被災者として飯田橋ギンレイホールのキャラバン隊による出張上映イベントに励まされた経験がある。とはいえ、脅威にさらされたり明日の生活にも困っている人たちが心から映画を楽しめるかといえば、答えは否だろう。

 日本においては、高度経済成長以後、いま経済的に最も深刻な局面にあるといえる。趣味の多様化の影響があるとはいえ、かつて「娯楽の王様」と言われた映画産業は斜陽の一途を辿り、その後のミニシアターブームも終焉を迎え、洋画の興行が厳しい状況にある現在、一部の人気作品以外には閑古鳥が鳴いていると言わざるを得ない状況が続いている。

 『国宝』や『教皇選挙』、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が予想以上にヒットしたことは祝うべきだと考える一方で、貧困層が拡大し、鑑賞料金がアップするなかで、観客が列をなす映画以外のタイトルについては、気軽に「映画を観にいこう!」ともなりづらい状況なのが悲しい。経済上の問題やプライオリティはあれど、映画を評論し紹介する立場の者として、ここは大いに力不足を感じるところではある。

 『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、観客、そして批評家のなかでも評価はやや低かったが、恐竜のスペクタクルの間に簡潔に描かれる人間ドラマは、かつてのジョン・フォード監督のような優れた職人性が発揮され、素晴らしい一作に仕上がっていた。こういうプロの見識が必要とされる見方を、もっと信じて参考にしてもらいたいという思いもある。『SKINAMARINK/スキナマリンク』や『ニッケル・ボーイズ』のような表面的な娯楽性から離れた実験作品を評価するのも、評論側の役割の一つだ。

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