マレフィセントからマグニフィコ王まで “複雑化”するディズニーヴィランズの変遷

ディズニーヴィランズの変遷

 魅力的な物語には、魅力的な悪役(ヴィラン)が付きものだ。2023年に100周年を迎えたディズニーの長編アニメーション作品の誰もが知る名作には、魅力的なヴィランが登場してきた。100周年記念作品として公開された『ウィッシュ』(2023年)のマグニフィコ王は、“史上最恐”のヴィランと謳われ、日本で絶大な人気を博している。

 『白雪姫』(1937年)の女王や『ピーターパン』(1953年)のフック船長、『眠れる森の美女』(1959年)のマレフィセントなど、ディズニーヴィランズには高い人気を誇っているキャラクターも多い。しかしそんなヴィランズも年代とともに変化してきている。本稿では各作品のヴィランの特徴を挙げながら、その変遷を見ていこう。

得体の知れない邪悪なヴィラン

『101匹わんちゃん』ディズニープラスにて配信中 ©2024 Disney

 ヴィランが邪悪であると感じられるのは、彼らの行動の動機がわからない、得体が知れないときだ。初期のディズニー作品に登場するヴィランたちは謎めいている。彼らが主人公たちに害をなす理由は、一見もっともらしく見えても“浅い”のだ。それゆえに得体が知れないとも感じられる。

 『白雪姫』のヴィランである女王は英語ではEvil Queen、「邪悪な女王」と呼ばれ、その呼称からすでに邪悪であることが示されている。邪悪であることが彼女を彼女たらしめるのだ。女王が白雪姫を城から追放し、ついには自ら手を下そうとさえした理由は「嫉妬」だ。彼女は自分が世界一美しいと信じ、魔法の鏡にもそう言われてきた。しかし白雪姫が成長すると、魔法の鏡は白雪姫が世界一美しいと言い、女王は彼女に激しく嫉妬するようになった。この動機は一見わからなくもないのだが、“浅い”。女王がどのような人生を歩み、なぜ美しさに固執するようになったのか。それが描かれれば、また印象は違ってくるだろう。

 マレフィセントはオーロラ姫の誕生パーティに呼ばれなかったことを逆恨みし、『101匹わんちゃん』(1961年)のクルエラ・ド・ヴィルは異常な毛皮好きで、コートを作るために子犬の命を狙う。『美女と野獣』(1991年)のガストンは嫌がるベルと結婚したがり、『ノートルダムの鐘』(1996年)のフロロー判事は偏見に満ちた身勝手な正義を振りかざす。彼らはその残酷な行いの理由の“浅さ”から、逆に得体の知れなさを醸し出している。ほかの立場から見れば些細なことに異常なほど固執するのが、旧来のヴィランの特徴とも言えるだろう。また彼らは外見も見るからに邪悪そうなのも見逃せない点だ。

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