明日菜子の「2025年 年間ベストドラマTOP10」 日常の中にふと差し込んだ小さな光

明日菜子の2025年ベストドラマTOP10

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2025年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第5回の選者は、ドラマウォッチャーの明日菜子。(編集部)

1.『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)
2.『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)
3.『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)
4.『阿修羅のごとく』(Netflix)
5.『ぼくたちん家』(日本テレビ系)
6.『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)
7.『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)
8.『バニラな毎日』(NHK総合)
9.『フェイクマミー』(TBS系)
10.『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)

 とにかく今年は大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が傑作だったおかげで、一年間ずっと楽しかった。偉い人たちの政に翻弄されながらも、エンターテインメントの力で世を照らし、どこまでもエンターテインメントの力を信じ抜く粋な蔦重(横浜流星)たちの生き様にグッときた。そして、昨年以上に勢いを増したのがNetflix。1月に配信された『阿修羅のごとく』を皮切りに、『グラスハート』『匿名の恋人たち』『イクサガミ』など、ドラマの新たな概念を打ち出す意欲作を次々と送り出した。

 というわけで、今年も悩ましかった年間ベスト。大河と朝ドラを除き、連続ドラマと配信・単発ドラマの中から選んでみた(※『舟を編む』は2024年ベストにランクイン)。

 第1位に選んだ『ぼくほし』は、疲弊しきった私たちの日常に、ふと差し込んだ小さな光のようなドラマ。大人でさえ生きるのがやっとの時代、子どもたちを取り巻く環境は、自分が学生だった頃よりも、ますます厳しくなっている。けれど『ぼくほし』は、そんな彼らを決して悲劇的には描かない。父と決別した北原(中野有紗)の第8話は、特に忘れられない回になった。若手俳優の台頭もあり、年々学園ドラマは増えているが、いつの時代であっても、当事者である若者たちのためのものであってほしい。

 『ぼくほし』と『続・続・最後から二番目の恋』。どちらを1位にするか悩みすぎて、もはや苦行の域だった。11年ぶりに幕が開いた本作は、ちょっと怖くなるほどに、私たちの“いま”を捉えている。他ドラマでは得られない特別な視聴体験をさせてもらった。千明(小泉今日子)と和平(中井貴一)の物語のつづきを見るために、5年後も10年後も、その先も、元気でいようと思えた。

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、期待値を超えた素晴らしい実写化! ドラマ版の脚色も見事で、原作の鋭さを削ぐことなく、どの世代の誰にでも当てはまる普遍的な物語に仕上げていた。なんといっても竹内涼真の勝男が最高。画面越しの視聴者のハートを鷲掴みにし、観ている側を一気に当事者へと引きずり込む求心力と繊細さを兼ね備えた唯一無二の役者だ。

 向田邦子不朽の名作を令和に蘇らせた是枝裕和版『阿修羅のごとく』は、まさに映画界からやってきた黒船! 新年早々とんでもないドラマが生まれてしまったと腰を抜かした。宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずのベストアクトを一気に目撃した気分。古典的なジェンダー観が飛び交う物語の中で、あらためて感じたのは、時代が変わっても色褪せない向田作品の豊かさだった。

 ゲイの中年男性を主人公にした『ぼくたちん家』は、のほほんとした空気をまといながらも、まごうことなき社会派ドラマである。第7話で玄一(及川光博)と索(手越祐也)が、いよいよパートナーシップ申請に踏み切った帰り道。周囲に誰もいないことを確かめながら、ひっそりと手をつなぐ二人の姿に、彼らが置かれている現状を痛感せざるを得なかった。それでも、受理されなかった婚姻届を見過ごさなかった役所の職員がいたこと。彼らと出会った15歳のほたる(白鳥玉季)が「この世の中に私に関係ないものなんてないのかも」と気づく最終回は、なによりの希望である。

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