丸山隆平、“相当な覚悟”で受けた8年ぶり主演映画で得た気づき 「距離感と思いやりが大事」

5月16日から公開中の映画『金子差入店』は、刑務所や拘置所に収容された人への差入を代行する「差入屋」を題材にしたヒューマンサスペンスだ。主人公となる差入店の店主・金子真司を演じたのは丸山隆平。『泥棒役者』以来8年ぶりに映画主演を務めた丸山に、久しぶりの映画出演に対する思いや役作り、そして本作の魅力についてたっぷりと語ってもらった。(柚月裕実)
「監督の人柄と本に惹かれて、『ぜひ!』と」
ーー映画作品へは8年ぶりの出演ですが、久しぶりに撮影現場に入ってみてどんなことを感じましたか?
丸山隆平(以下、丸山):今回が初の長編映画となった古川(豪)監督が11年間温め続けたオリジナル作品だったので、世に出すために丁寧に作り上げていく空気感、熱量がすごくて。集中力が研ぎ澄まされるような現場で、とても充実した撮影期間でした。スタッフのみなさんが、俳優部がとにかくお芝居だけに集中できるようなシチュエーションを作ってくださったので、とても恵まれた現場で撮影することができました。
ーー今回の出演で、決め手になったのはどんなことでしょうか?
丸山:すべてのタイミングですかね。脚本や監督との出会いもそうですし。スケジュール的なものもありました。オファーをいただいてから急ピッチで進めて、本当に奇跡的なタイミングだったと思います。僕自身は、監督の人柄と本に惹かれて、「ぜひ!」と答えました。
ーー脚本のどんなところに惹かれたのでしょうか?
丸山:「差入屋」という職業自体に馴染みがなかったのと、登場人物の普遍性に惹かれました。あと、身近にはないようなサスペンス的な要素もありながら、実際にそういう方がいることに目をそむけない内容で、見捨てることなく、かつ、綺麗事だけで描くわけでもない。すごく地に足のついた物語だったので、そこに心を動かされました。俳優として、相当ハードルが高いことを求められているのも嬉しかったですし、チームに入れようとしてくださったこと自体も嬉しかったので、相当な覚悟をもってオファーを受けました。
ーー丸山さんが演じる金子は差し入れ屋の店主で、自ら刑務所に入った経験を持つ人物です。役作りはどのようにしていきましたか?
丸山:ひとつは、この作品の脚本を書かれた監督自身がこの作品の中にちりばめられている気がしたので、金子を演じるときに監督をモデルにしました。監督のご家族に対しての愛情がすごく深いんですよね。家族の話をしているときの顔は、監督として、一人の男としての顔とは違う、父の顔みたいな部分があったんです。僕はまだ父でも既婚者でもないので、そういうところを意識しました。あとは、監督自身の若かりし頃の性格も練り込まれてる感じがしたので、そこも要素として参考に。肌感や髪のような見た目に関しても、自分の想像に加えて、古川監督から聞いた話を踏まえながら作り上げていきました。大きいスクリーンで観てもらう映画なので、違和感のないエイジングのかけ方を心がけましたね。日常のなかに金子を同居させて、常に「こういうとき、真司はどうするかな?」ということを考えながら。少しずつ彼を自分のなかに入れ込んで、違和感なく表現できるように、寝かせは出現させ、寝かせは出現させ……みたいなことを繰り返していました。
ーー監督とは何度も会って、個人的な生い立ちの話もされたそうですね。
丸山:まずはお互いのパーソナルなところを知ろうと。結果的に、食事や飲みの席を重ねたことが僕にとって役づくりのためのすごくいい栄養分になりました。僕は舞台のときも、作演される方とは何度もご飯に行ってその方のことを知ろうとするのですが、ものづくりをされる方は“表現者”なので、その人を知ることってやっぱり面白いんですよね。そういう方ほど、普遍性も意識的に自分なりの切り取り方をされるので。日常会話で「いや~、実は昔ちょっとやんちゃしてまして……」みたいノリがあるじゃないですか。「あ、そうなんすね? 意外に」というようなノリから、お互いの人となりを話すことになりました。
ーー反対に、丸山さんが自身の話をしたことで、それが作品の内容や演出に反映されたことは?
丸山:僕の認識の中ではないんですけど、監督が演出される際に「丸山さん、こういうこと話されてたじゃないですか」みたいなことをヒントとして出してくれて。「あ! そういう感情か」っていう会話を重ねたことがありました。2人の共通言語として、お芝居のヒントとしてはありましたね。
ーー共演者の方々についても聞かせてください。北村匠海さん、寺尾聰さんとは、ミュージシャンもしながら俳優のお仕事もされていると言う共通点があります。お芝居で向き合うなかで、通ずるものや何か感じたことはありましたか?
丸山:お二方だけに限らず、みなさんやっぱりお芝居に対してのアプローチの仕方とか、今までそれぞれが戦ってきた武器みたいなものがあるじゃないですか。名刀・村正なのか妖刀なのか、それぞれの特殊能力みたいなものがある。北村さんは、底知れない構築の仕方みたいなものを感じました。実際に対峙しているときと映像で観たときの印象が全然違うんですよね。試写で作品を観たときに、「あ、こういうふうになるのか!」と驚きました。ただの見せ方じゃない、マジックを見せられているような感覚でした。寺尾さんはもう存在しているだけで……っていう部分もあるんですけど、やっぱりいろんな時代を耐えしのぎ、勝ち上がってきたが故の奥行き、人としての大きさを感じましたね。例えば、カットはかかるんだけど、セリフ以外のところで、役としてのセリフを一言言ってくださるシーンがあったんです。僕は背中でその言葉を聞くんですけど、もう何回もガーッ!て来ました。「真司はこういうふうに思ってたんだ」っていうヒントみたいなものを添えてくださいました。
ーーそこも見どころのひとつに。
丸山:見どころを挙げればキリがないので、いろんなシチュエーションで観ていただきたいです。恋人とでも家族とでも、兄弟とでもいい。一緒に観に行く関係性の人とどういう形でこの映画を共有するのか。観てくださる人それぞれの見どころとして刺されば、作り手としてこれ以上の喜びはないですね。