『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』のクオリティの高さに驚き 表現力の秘密と作品の説得力

「アスパラガス」をはじめ、「深焼き」などの製法が駆使される、製菓会社・ギンビスのビスケットの質の高さは、市販のお菓子のなかで際立っていると感じるのは、私ばかりではないだろう。そんなギンビスの看板商品の一つ、「たべっ子どうぶつ」といえば、動物型のビスケットで、1978年から愛され続けているロングセラー商品である。シンプルながら実直な味が魅力で、動物の英語名の焼き目がついていることで、教育効果もある。パッケージに印刷された、イラストレーター・はらJINによる愛らしいキャラクターたちも人気の理由だ。
そんな「たべっ子どうぶつ」が、『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』としてアニメーション映画化されたという報道、宣伝は、多くの人に意外な思いを抱かせたことだろう。なぜ、いまこの題材が映画になったのか。その理由や、作品自体の驚くほどの表現力の秘密を考えつつ、本作『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』の描いたものが何だったのかを考えていきたい。
「たべっ子どうぶつ」アニメ映画化の発端になったのは、TBSの須藤孝太郎プロデューサーなのだという。彼はキングレコードで『ポプテピピック』を手がけた人物。今回の斬新な映画化企画というのは、TVアニメの常識から逸脱した構成が話題となった『ポプテピピック』の精神が反映されているところがあるように思える。
とはいえ、今回は子どもの観客を意識した内容で、コメディ描写は多いものの、『ポプテピピック』ほど破壊的な内容とはならなかった。ロングセラー商品「たべっ子どうぶつ」が題材なので、当然の姿勢だろう。しかし今回は、ギンビス製品同様、作品自体のクオリティの高さに驚かされることになるのである。
本作では、らいおんくん、ぞうくん、ぺがさすちゃん、さるくん、かばちゃん、うさぎちゃん、ねこちゃん、きりんちゃん、わにくん、ひよこちゃんという、たべっ子どうぶつたちが、アイドルグループや、そのスタッフとして登場する。冒頭でのワールドツアーの模様から、お菓子の多様性を排除しようとする“わたあめ軍団”の支配との戦いが、表現力豊かに描かれる。
シンプルなデザインながら、ライブ場面や仲間たちとのやりとりで見せる、たべっ子どうぶつたちの表情やボディランゲージの豊富さや複雑さ、そしてプライベートジェットが無数のわたあめによって不時着を余儀なくさせられるシーンなどに代表される、スペクタクル場面のリッチさなど、まるでアメリカの一線級のスタジオに近い領域にまで達しているように見えるのだ。製作費はいったいいくらなのかと、思わず心配になってきさえする。
「ピクサー・アニメーション・スタジオ」や「イルミネーション・エンターテインメント」、「ドリームワークス・アニメーション」や「ソニー・ピクチャーズ アニメーション」などなど、3DCGを駆使する一線級のスタジオがアメリカには多数存在し、それらは現在のアニメーション技術の最前線にあるといえる。日本でもCGアニメーション作品はもちろん多数制作されているが、いまもなお手描きの2次元的なアニメーションが日本ではシェアを誇っていて、それが日本のアニメの特異性を際立たせてもいるのだ。
とはいえ、CGアニメーションの表現の幅やコスト面において年々成長を遂げていることで、日本のアニメ表現においても、手描きに加えてCG映像を追加するハイブリッドな作品が主流になってきているところがある。その流れで、CG部分やエフェクトを追加する作業を含めたポスト・プロダクションなどを担当するスタジオが成長してきているのも事実である。
日本のアニメスタジオといえば、東京では練馬区、杉並区などを中心とした西東京で、多くのスタジオ、アニメーターが文化圏を形成している状況が従来から続いているが、CGを中心としたスタジオは東京のさまざまな地域に分布している。本作『たべっ子どうぶつ』を手がけたスタジオは、天王洲アイルに居を構える「マーザ・アニメーションプラネット」だ。セガのCG映像制作から始まったスタジオで、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズの製作にも加わっている。