『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』のクオリティの高さに驚き 表現力の秘密と作品の説得力

天王洲アイルは、バブル期の隆盛後に衰退した地域だったが、近年はアートフェアやデジタル展示などがおこなわれる文化の発信地としての役割を担い始めている土地柄で、「マーザ・アニメーションプラネット」や「Qzil.la」といった、デジタルアニメーションのスタジオの本拠に選ばれている。こういった立地の違いからも、従来の日本のアニメ文化圏とは、一線を画した印象がある。
というのも、これまで自社においても画期的なハリウッドスタイルのCG映像制作ワークフローを用いてきた「マーザ・アニメーションプラネット」は、2016年に「Unity社」と協働して新たにゲームエンジンUnityを取り入れるという手法を確立するという事業をおこなっている。つまり、ゲームの最先端技術が、CG映像、アニメーションの制作のなかで応用される仕組みを作り上げたということなのだ。大手スタジオだけが実現できたレンダリングの計算の時間と手間も大幅に軽減され、大幅なコストカットが実現できる。このように制作の設計そのものを俯瞰して改革する動きは、従来の日本のスタジオからはなかなか出てこない発想だといえる。(※)
例えば、「ピクサー・アニメーション・スタジオ」は業界のトップランナーとして、自社で開発したノウハウを蓄積することで、優位性を保ってきている。だから、日本のCGアニメスタジオは、とくに表現力や制作コストの面において、とても追いつけないほどの差をあけられてきたというのが実情だった。しかし、ゲーム業界からの最先端技術を利用することで、その圧倒的な差が急速に縮まりつつあるのだ。それを分かりやすく示したのが、「マーザ・アニメーションプラネット」が作り上げた、本作『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』だったのではないだろうか。これは、オープンソースソフトウェア「Blender」を用いて、小規模ながら大手を抑えてアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した『Flow』(2024年)にも言えることだ。
これまで、ゲームやアニメ作品、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズなどのCGを担当することが多かった「マーザ・アニメーションプラネット」だが、おそらく今回はまるごと請け負った映画作品で、自社の武器を一般にも広くお披露目したかたちになるのだろう。どちらかといえば、業界内で知られるスタジオだったのが、これで一気に日本で注目のアニメスタジオに踊り出た印象である。
また、ギンビスは20カ国で販売されているということで、映画もまた海外展開を狙う余地があるかもしれない。メインキャラクター以外の人間たちのキャラクターたちも、さまざまな人種が採用されていて、プロットも日本ばなれしているところがある。
本作の悪役は、満たされなかった子ども時代が独裁的な思想を生んでしまったというキャラクター。本作の舞台となるスイーツランドを支配し、自分の幸せの象徴であるわたあめのみを唯一のお菓子として強要しようとするのである。これは、画家になることを夢見ていたアドルフ・ヒトラーが、政治的、軍事的な力を持ったのちに、自分の認める芸術表現以外を弾圧する構図に似せてあると考えられる。そう考えれば、わたあめ軍団に支配されるスイーツランドとは、かつてナチスの支配下にあったパリの状況を想起させられるところがある。もちろん、その構図はあらゆる独裁政権や抑圧的な社会にも重ねることができるはずだ。
独裁政権の打倒や、レジスタンス活動が描かれる本作は、民衆たちによる民主主義的な力を賛美するもの。こうした枠組みは、現在の日本はともかくとして、世界的な市場では支持されやすい傾向にある思想部分だろう。キャラクターデザインとともに、より普遍的な内容を送り出すことを志向していることが伝わってくる点である。
たべっ子どうぶつ側の課題は、らいおんくんとぺがさすちゃんの確執として描かれる。人気者であるがゆえに、らいおんくんは自分の人気が他のメンバーに奪われることに敏感だ。後から加入したのに、絶大な支持を受けているぺがさすちゃんに複雑な思いを抱いてしまうのである。また、ぺがさすちゃんも自分に自信が持てずに秘密を背負ってしまうことになる。自分をそれ以上の存在に見せようとする行為は、とくにSNSが普及した過程で起きている、現代的な問題だといえよう。
これらの問題を包括するように提示される価値観が、“人を幸せにする”という観念だ。お菓子本来の目的に合致する、この考え方は、とくに現代の諸問題が、自分本位の思考からきていることを示すカウンターとして作中で機能させてある。そんな利他主義的なメッセージを、お菓子の販促の意味もある商業作品から発信されるとは、正直思わなかった。しかし、誠実な製法で美味しさが際立ったビスケットを作っているギンビスだからこそ、そこには一定の説得力が生まれているのかもしれない。
参考
※ https://www.marza.com/news/article/635/
■公開情報
『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』
全国公開中
声の出演:松田元太、水上恒司、髙石あかり、藤森慎吾、蒼井翔太、小澤亜李、水瀬いのり、東山奈央、立木文彦、間宮くるみ、大野りりあな、関智一、大塚明夫、大塚芳忠
原作:ギンビス
監督:竹清仁
脚本:池田テツヒロ
企画・プロデュース:須藤孝太郎
主題歌:「Would You Like One?」Travis Japan(Capitol Records / ユニバーサルミュージック)
アニメーション制作:MARZA ANIMATION PLANET INC.
配給:クロックワークス、TBSテレビ
製作幹事:TBSテレビ
©︎ギンビス ©︎劇場版「たべっ子どうぶつ」製作委員会
公式サイト:https://tabekko-movie.com
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