Netflix映画『新幹線大爆破』はなぜ成功? 1975年版への重層的リスペクトに溢れた一作に

Netflix映画『新幹線大爆破』なぜ成功?

新たに強調される「職人」へのリスペクト

Netflix映画『新幹線大爆破』Netflixにて配信中

 また、鉄道職員たちの「職人的カッコよさ」を映しだす場面の数々にもグッとくる。協力会社への忖度というよりも、『シン・ゴジラ』の巨災対、『シン・ウルトラマン』(2022年)の禍特対と同じように、「プロフェッショナリズムへの憧憬」が生み出した描写だろう。

 新幹線統括本部の熟練スタッフが、定規と鉛筆を駆使して運行ダイヤを手書きで調整する姿には『アポロ13』(1995年)の一場面、もしくは『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)を思い出す観客も多いはずだ。また、並走車両からの機材受け渡し、「幹総」からの車両切り離し作業指示など、75年版との共通部分も含む印象深い場面の多くに、「プロの職人へのリスペクト」がより鮮やかに刻まれている。そこには、特撮界のレジェンドたち、あるいは東映スタッフの面影も重ねられているのかもしれない。

 そのなかで「鉄道人の心構え」を体現する車掌・高市役の草彅剛は、その信念が揺らぐ瞬間までも見事に演じ、まさにハマり役である。実直さと不器用さ、安心感と危うさを同時にはらんだキャラクターを演じさせると、やはり抜群に巧い。近作『碁盤斬り』(2024年)でも見せた「鬼の形相」に豹変する芝居も迫力満点だ。

Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中

 また、75年版では千葉真一が熱気たっぷりに力演した運転士役を、のんが凛々しく演じるのも清新な印象を与える。ほかの登場人物とほとんど絡まない孤独なポジションながら、彼女の芯の強さが「私情を排してプロに徹する」役柄とぴったり合致していて、気持ちがいい。

 75年版の宇津井健に負けじと力演を披露する斎藤工(総合指令所統括・笠置役)をはじめ、原田眞人組の常連・大場泰正(新幹線統括本部長・吉村役)、本業はミュージシャンの西野恵未(運輸車両部マネージャー・山本役)ほか、さながらバイプレイヤー博覧会のごとき総合指令所の顔ぶれも壮観だ。鉄道関係者以外にも秀逸なキャスティングが多いが、なかでも一番の儲け役といえるのが、川越警部補役の岩谷健司だ。劇中で唯一、職人ではない「普通の人」の目線を観客と共有し、リアクション担当として好印象を残す。オホホ商会時代からのファンとしては嬉しい配役だ。

 そして、犯人役の意外な俳優が放つ鬼気迫る存在感からも、目が離せない。観た者同士で思わず語り合いたくなること必至の「妙演」である。

ラストに立ち上がる「源流」としての75年版の存在感

『新幹線大爆破』(1975年)©東映

 繰り返しになるが、75年版は「国鉄の非協力」という事態に直面し、その究極の難局を乗り越えた結果、歴史に残る名作となった。この現実に起きた逆転劇を、Netflix版はそのままクライマックスの展開に導入したかのように見える……と言ってしまうのは、さすがに穿ちすぎだろうか?

 また、このクライマックスで思い出すのが、75年版からの影響を多大に受けたハリウッド映画のひとつ、『スピード』(1994年)の有名なセリフだ。

「爆弾は爆破させるために作られている。それが存在意義であり、目的だ」

Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中

 ハリウッド・ブロックバスターの源流には、紛れもなく『新幹線大爆破』の存在があることを、Netflix版は思い出させてくれる(名曲「Let It Snow」が聞こえてきそうなラストカットは秀逸!)。Netflix週間TOP10で、日本1位、世界2位(非英語作品)という成績を叩き出したのも、その証左といえるのではないだろうか。このタイトルが持つ神通力はいまだ衰えていないのである。

■配信情報
Netflix映画『新幹線大爆破』
独占配信中
出演:草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工
監督:樋口真嗣
脚本:中川和博、大庭功睦
原作:東映映画『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助/佐藤純彌、1975年作品)
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:石塚紘太 
ライン・プロデューサー:森賢正
准監督:尾上克郎
脚本:中川和博 大庭功睦
音楽:岩崎太整、yuma yamaguchi
撮影:一坪悠介、鈴木啓造
照明:浜田研一
録音:田中博信
美術:佐久嶋依里、加藤たく郎
スタイリスト:伊賀大介
編集:梅脇かおり 佐藤敦紀
アクション・コーディネイター:田渕景也
VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀
ポストプロダクションスーパーバイザー:上田倫人
Compositing Supervisor:白石哲也
リレコーディングミキサー:佐藤宏明(molmol)
音響効果:荒川きよし
ミュージックスーパーバイザー:千陽崇之
特別協力:東日本旅客鉄道株式会社 株式会社ジェイアール東日本企画
制作プロダクション:エピスコープ株式会社
製作:Netflix

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