『デジモン』『プリキュア』 東映アニメーションはなぜ長く愛される作品を生み出せるのか?

神木優Pに聞く、東映アニメーションの強み

 アニメスタジオに潜入し、スタッフへのインタビューを通してそのスタジオが持つ“独自性”に迫る連載「アニメスタジオのここが知りたい!」。第7回となる今回は、「東映アニメーション」をピックアップ。プロデューサー・神木優の目線から東映アニメーションの魅力を掘り下げていく。(編集部)

 日本アニメを代表するスタジオ、東映アニメーション。『ONE PIECE』『DRAGON BALL』や『プリキュア』シリーズ、『デジモン』シリーズなど、長く愛される作品を多数手掛けている同社の強さの秘密はどこにあるのか。『Go!プリンセスプリキュア』『キラキラ☆プリキュアアラモード』のプロデューサーを務め、現在は『デジモン』シリーズのプロデューサーチームの統括を務める神木優氏に話を聞いた。東映アニメーションの強みだけにとどまらず、話はグローバル化や少子化への対応にも及んだ。

『セーラームーン』に憧れ、『プリキュア』のプロデューサーに

――神木さんが東映アニメーションに入社されたのは2011年ですね。入社を決めた動機は何だったのですか?

神木優(以下、神木):東映アニメーションは子ども向けの作品作りに挑める会社だと思ったためです。アニメーションの可能性は多方面にあると思いますし、今日の日本では様々なアニメが作られていますが、東映アニメーションは子ども向けの作品に対してもチャレンジをしているところが魅力的に映りました。

――神木さんは子どものためにアニメーションを作りたかったという希望を最初から持っていたのですね。子どもの頃からアニメがお好きだったのですか?

神木:はい。私は兵庫県出身ですが、小学校に入る前に阪神淡路大震災を経験したんです。その被災体験の中で、数少ない娯楽であったテレビも特番が多く、とりわけ『セーラームーン』が放送されなかったことがショックだった記憶があります。今考えると呑気な話かもしれませんが、その頃の私にとって『セーラームーン』の放送はとても大切で。観られなくなってから、毎週の放送が心の支えだったことに気づくことになりました。その経験から、アニメって子どもたちのために必要なものなんじゃないかと思うようになりました。

――辛い時にこそ楽しいアニメが必要だと感じたわけですね。それで神木さんは入社してすぐに『プリキュア』シリーズに関わることになりますね。

神木:はい。アシスタントプロデューサーとして現場に入ったのが最初です。

――『プリキュア』シリーズは20年を超える歴史がありますが、神木さんにとってこのシリーズはどういう存在だと言えますか?

神木:『プリキュア』は『セーラームーン』とは異なる意味で大切な存在です。私が印象に残っているのは、『ふたりはプリキュア』を監督された西尾大介さんから教えてもらったことです。一つ挙げるなら『プリキュア』を作るうえでどんなことに気を付けるべきかを考えていた時に、ふと耳にした「プリキュアって世界を救わないからね」という言葉です。これは、彼女たちが「世界を救おう」と思って戦うのではなく、「自分たちの一歩を踏み出そう」としている物語だと。あとは、「アクションはあるけど暴力を描かないようにしてください」や、「彼女たちの前に出ていく時の爽快感を大切にしてほしい」など。そういった印象的な言葉は今でも私の心の中に残っています。もちろん、西尾さんだけじゃなく、プロデューサーの先輩方からも、たくさんのことを教わりました。

『プリキュア』シリーズ最新作『キミとアイドルプリキュア♪』©ABC-A・東映アニメーション

――「『プリキュア』は世界を救うために戦っているんじゃない」というのはいい言葉ですね。『プリキュア』をはじめ、現在担当されている『デジモン』は子どもたちに大切なことを伝え続けてきたシリーズで、その一つに多様性というものもあったと思います。多様性を描くときに気を付けることはありますか?

神木:『プリキュア』は長く続いていることもあって、今でこそ王道のように思われるかもしれませんが、始まった当初は「女の子だって暴れたい」というコンセプトがあり、反骨精神の延長に作品がありました。それまで女の子が魔法で敵を倒すような作品はあったものの、徒手空拳で立ち向かっていく女の子たちの姿は当時印象的だったのではと思います。東映アニメーションのアニメ製作では、普段の生活や社会の中で常識になっていたり、誰もが疑わずにいることにも、別の視点を当てていこうという土壌があるように感じます。また、『デジモン』シリーズは、子どもたちとデジモンが共に成長する群像劇です。子どもたちは性格・年齢・髪や肌、目の色が各々違っており、家庭環境もばらばら。1999年に始まったシリーズですが、当時としては珍しく海外でも広く放送され、人気作品になりました。当日「多様性」という言葉はさかんに使われていませんでしたが、特に海外では子どもたちの髪や肌や目の色が異なるところはポジティブに捉えられたようです。社内に『デジモン』好きの様々な国籍の同僚がいるのですが、皆さん総じて「当時とても新しさを感じてかっこよかった」と話しています。関わっている私たちに多様性がなければできないことがたくさんあるでしょうし、キャラクターデザインひとつとっても、誰かが傷つかないだろうかと考えますが、そこで最大公約集を取ればいい、というのも違うと思っています。私たちの事業は、お客様が感動してくださる幅の中で生まれてくるものです。だからその幅を狭めては元も子もないですよね。自分の中にも多様な側面があることや、出会う人々にも様々な人がいるなど、いろいろな角度から物事を見ることが、結果として多様性に繋がっているのではないかと思います。

――神木さんは『プリキュア』シリーズのほか、『美少女戦士セーラームーンCrystal』のプロデューサーも務めています。先ほどお話にも出てきましたが、『セーラームーン』というタイトルは神木さんにとってどんな存在なのですか?

神木:もちろん大好きな作品で、心の支えだった作品でもあります。私は特にセーラージュピターが好きで、セーラージュピター自身になりたかったんです。そんなことを家族に言っていたら本気と捉えられたのか、母に空手教室に連れていかれて(笑)。その後結局、空手を10年続けることになりました。だから、セーラージュピターになりたいという思いがリアルに生活に組み込まれたというか、その気持ちと一緒に育ったんだなと思います(笑)。

――10年続いたのはすごいですね。

神木:結構長いですよね(笑)。

――神木さんは、フランスと共同制作した『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』にも参加されていましたね。

神木:入社以来ずっと企画部に所属していますが、半年間ほど、フランスにある「東映アニメーションヨーロッパ(TOEI ANIMATION EUROPE S.A.S.)」に勤務していたことがあります。その時に、海外配給や海外スタジオとやり取りをする経験をしました。その流れで『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』の日本版プロデューサーをさせていただきました。

――国内外の作品に携わってきた経験の中で、アニメのプロデューサーに必要な資質や姿勢はなんだと感じましたか?

神木:「ときどき突拍子もないことを言うけれど一理ある」と思わせられるようなプロデューサーに私は憧れます。「そういえば、あの時言っていたこと、当時は無理だったけど叶った」というケースをいくつ積んでいけるのかが大事かなと思います。私自身未熟ですけど、アニメ製作は自分に出来ないことがあっても、究極的にはチームワークですから、そのチームと一緒に製作しながら目的地を想像して、しつこくこだわっていくのが大切だと感じています。

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