『キャスター』のんが科学とジャーナリズムの矛盾を突く 道枝駿佑が体現する純粋さと情熱

『キャスター』道枝駿佑が純粋さと情熱を体現

 わかりにくかったのは高坂の動きで、匿名アカウント“黒猫”を名乗って研究不正を告発していたのに、進藤に直撃されるとあっさりiL細胞の可能性を認める。iL細胞がないと思っていたのに、その道の権威の一声で風向きが変わり、とんとん拍子で再現までこぎつけたせいで、狐につままれたような気持ちになった視聴者も多かったのではないだろうか。高坂は表と裏の顔を使い分けていて、最終的に研究成果を手中にしたくだりは、科学の世界でも政治力のある人間がのし上がる現実を表しているように感じた。

 STAP細胞は日本の理化学研究所とハーバード大学、山梨大学所属の研究者によって発表され、数々の検証実験が行われたものの再現に成功せず、研究不正が認定された。中心人物の死とスキャンダルもあって、当事者は今なお世間の好奇の目にさらされている。しかし、この間、共同研究者によってアメリカでSTAP細胞の生成方法は特許を取得している。ゴシップしか追っていないと見えてこない情報のギャップ、別の真実がある。

 第3話が描こうとしていたのは、科学とジャーナリズムの相克といえる。仮説と検証の繰り返しで進歩する科学において、真実とは反証可能性を許すものである。要は絶対的な真実などなく、より確からしい仮説の積み重ねによって一歩ずつ真実に近づく。一方で、シロかクロかを決めつけたがるのが人間である。それが極端な形で出ているのがマスコミ報道、なかんずくゴシップ分野と言っていいだろう。

 「存在する確率が統計的に有意である」としか言えないことを「細胞が存在する」と書くことでインパクトが生まれる。当該事案については、研究にかかわった当事者が「ある」と断言したことでニュースバリューが跳ね上がり、予想外の結末を生んでしまった。私たちが属人的な話題にかまけている間も、科学の世界では日々新たな発見が積み重ねられている。そんなことを考えながら第3話を観返してみると、新しい発見があるかもしれない。

『キャスター』の画像

日曜劇場『キャスター』

テレビ局の報道番組を舞台に闇に葬られた真実を追求し悪を裁いていく社会派エンターテインメント。圧倒的な存在感で周囲を巻き込んでいく型破りで破天荒な主人公・進藤壮一が、視聴率低迷にあえぐ報道番組『ニュースゲート』を変えていく。

■放送情報
日曜劇場『キャスター』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:阿部寛、永野芽郁、道枝駿佑、月城かなと、木村達成、キム・ムジュン、佐々木舞香、ヒコロヒー、山口馬木也、黒沢あすか、堀越麗禾、馬場律樹、北大路欣也(特別出演)、谷田歩、内村遥、加藤晴彦、加治将樹、玉置玲央、菊池亜希子、宮澤エマ、岡部たかし、音尾琢真、高橋英樹
脚本:槌谷健、及川真実、李正美、谷碧仁、守口悠介、北浦勝大
音楽:木村秀彬
プロデュース:伊與田英徳、関川友理、佐久間晃嗣
演出:加藤亜季子、金井紘
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/caster_tbs/
公式X(旧Twitter):@caster_tbs
公式Instagram:caster_tbs
公式TikTok:@caster_tbs

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