『地震のあとで』は“わからなさ”こそが面白さに のんの声がもたらした“かえるくん”の奇跡

それでも片桐は、自分の罪と向き合うために現実の世界に戻り、かえるくんと再会する。大地震を防いだかえるくんは30年前と同じように再び消えていくのだが、最後にかえるくんは、自分は片桐の「影」だと告白する。
つまり、かえるくんは片桐の中に眠っている善の意思のようなもので、実は二人は同一の存在だったことが判明する。二人の関係は村上春樹の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮社)で描かれた僕と影の関係を思わせる。

そう考えると謎の男も、同作に登場する「やみくろ」に近い存在だったのかもしれない。本作は、村上春樹の小説が持つ幻想的なイメージの映像化と、天災を通してこの30年間を描くという2つの難題に挑んだ意欲作だった。題材が題材ゆえに物語も映像も難解だったが、むしろ「わからないこと」こそが面白いと感じさせてくれる作品だったと言える。
監督の井上剛には、本作のアプローチで『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』(新潮社)といった村上春樹の長編小説にもいつか挑戦してほしい。
■放送情報
土曜ドラマ『地震のあとで』
NHK総合にて、毎週土曜22:00~22:45〈全4話〉
出演:岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市、橋本愛、唐田えりか、北香那、吹越満、泉澤祐希、黒崎煌代、渋川清彦、黒川想矢、木竜麻生、津田寛治ほか
制作統括:訓覇圭、樋口俊一、京田光広
原作:村上春樹 『神の子どもたちはみな踊る』より
脚本:大江崇允
音楽:大友良英
演出:井上剛
写真提供=NHK






















