『地震のあとで』は視聴者をどこに連れていく? 村上春樹の世界を具現化した“喪失”の先

NHK土曜ドラマ『地震のあとで』は、村上春樹の小説『神の子どもたちはみな踊る』(新潮社)を映像化化したものだ。
小説は阪神・淡路大震災とオウム真理教による宗教テロ・地下鉄サリン事件が起きた1995年を舞台にした連作短編集。震災や地下鉄サリン事件を直接描いた物語ではなく、その影響で人生が一変してしまった人たちの姿を描いている。
監督はNHK連続テレビ小説『あまちゃん』やNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』のチーフ演出だった井上剛が担当している。井上は『あまちゃん』では東日本大震災を劇中で描き、『いだてん』では関東大震災を劇中で描いた。また2010年には『その街のこども』(NHK総合)という、子どもの時に阪神・淡路大震災を経験した男女が15年後に夜の神戸を歩く単発ドラマを手掛けている。
作中で繰り返し天災を描いてきた井上だが、『地震のあとで』は、1995年から2025年までの30年間の間に起きた天災の影響で人生が変わった人々の物語となっている。
まず、今回の第1話「UFOが釧路に降りる」は、舞台が1995年ということもあり、全4話の中で一番原作小説に近いエピソードとなっている。むしろ原作の道筋をなぞることで、言葉でイメージを喚起する村上春樹の小説世界を、テレビドラマに落とし込むと、どのような世界が誕生するのかを見せてもらったように感じた。

物語は暗いトンネルの映像から始まり、主人公の小村(岡田将生)が目を覚ます場面から始まる。小村がリビングに向かうと妻の未名(橋本愛)は阪神・淡路大震災のニュース映像を黙って観ている。
数日後、未名は「二度とここへ戻るつもりはありません」という書き置きを残して、小村の元からいなくなった。そして、未名の叔父(吹越満)と名乗る男が訪れ、小村に離婚届が渡される。突然、夫の元から妻がいなくなるという導入部は、村上春樹の小説で繰り返し描かれてきた展開だ。村上春樹は大切な人の「不在」と「喪失」を繰り返し描いてきた。そのため原作小説を読んだ時も、村上春樹らしい話だと思い、震災のことはそこまで深く意識しなかった。
だが、ドラマでは、震災のニュース映像を朝から晩まで見続けたことが、未名の心に大きな影響を与えてしまったが、とてもよく理解できる。
このあたりはドラマと小説の大きな違いだろう。現実のニュース映像が繰り返し挿入される『地震のあとで』の方が生々しく、現実に起きた出来事を契機に人々の考え方が変わってしまったというドキュメンタリー性が際立っていると感じた。対して、その後に展開される物語は、とても不可思議で、村上春樹ワールドらしい展開となっている。




















