作間龍斗が内山昂輝から継承した“山田像” 『山田くんとLv999の恋をする』映像化は大成功

作間龍斗が内山昂輝から継承した“山田像”

 原作の実写化やアニメ化といった“メディアミックス”に対して、身構えてしまう人は少なくない。吉と出るか、凶と出るか。思い入れがある作品であればあるほど、その期待と不安は比例して大きくなる。

 そんな中で筆者が、近年まれに見る実写化の成功例として深く感動したのが、映画『山田くんとLv999の恋をする』だ。本作は、マンガアプリ「GANMA!」で連載され、2023年にはテレビアニメ化もされた同名漫画を原作にした作品である。

 正直に言えば、最初は不安のほうが勝っていた。原作やアニメへの思い入れがあるからこそ、実写化に対する期待は慎重にならざるを得なかった。けれど、いざ蓋を開けてみれば、映画『山田くんとLv999の恋をする』は、アニメ版・実写版それぞれが異なる形で原作の魅力を引き出すことにしっかり“成功”していた。実際にSNSでも、「想像以上に良かった」「原作への愛を感じた」といったポジティブな声が多く上がっており、作品への評価の高さがうかがえる。

 なぜ、この作品はアニメでも実写でも、多くのファンを納得させることができたのか。その鍵は、まず2023年に放送されたアニメ版の完成度にあるように思う。なかでも注目すべきは、山田の声を演じた内山昂輝の“ハマり役”ぶりだ。彼が演じるクールながらも徐々に茜への確かな感情を徐々に湛えていく山田は、多くの視聴者の心をつかんだ。特に第13話、茜との想いが通じ合うシーンでの「バレたか」は、名台詞として今なお切り抜き動画などで話題にのぼり、公式X(旧Twitter)でも「皆さんが最もキュンとしたシーン」と謳われている(※1)。クールな役を多く務めてきた内山のキャリアの中でも、山田は代表キャラの一つといえるだろう。

 そして今回の実写映画では、そうしたアニメを入り口として作品を知ったファンの心をくすぐる仕掛けも随所に散りばめられている。劇中に登場するオンラインゲーム「Forest Of Saver」では、ギルドキャラクターたちの声をアニメ版キャストが続投。内山昂輝、水瀬いのり、加隈亜衣、土屋李央がそれぞれ「山田」「Akane」「瑠璃姫」「つばき」のボイスを担当しており、実写の俳優による演技とアニメキャストの声が自然に重なり合う場面では、アニメから作品を追ってきたファンなら思わずニヤリとしてしまうはずだ。

 こうした仕掛けがより効果的に機能している背景には、アニメ版における演技の方向性がある。重要なのは、アフレコ時にキャスト陣が監督から「基本的には自然に演じてください」と伝えられていたというエピソードだ(※2)。絵柄こそコミカルであっても、声の演技まで過剰にしてしまうと観客は笑えない。そんな意図から、あえてアニメっぽさを抑えた、リアル寄りの芝居が求められていたのである。

 一方で、実写版では、山田を除く登場人物たちの演技が全体的にコミカルなトーンで描かれていたのが印象的だった。なかでも茜役の山下美月は、走る、転ぶ、泣くといった動きの多いシーンが続き、テンポよく表情を切り替えながら、作品全体に軽快なリズムを生み出していた。さらに、劇中にはゲーム風の効果音が効果的に挿入され、登場人物の感情に応じてHPゲージが表示されるなど、映像と音響の両面で“ゲームの世界”を感じさせる遊び心あふれる演出が際立っていた。

 つまり、『山田くんとLv999の恋をする』が実写化でも成功を収めた理由のひとつは、アニメ版では“自然さ”を、実写版では“コミカルさ”を強調するという異なるアプローチを取りながらも、映像化作品として一貫した世界観を丁寧に築いていた点にあるのではないか。結果として、両者のあいだに違和感はなく、別々の表現でありながらも同じ原作の世界を共有していた。そして何より、各種インタビューなどで明かされているように、原作者との綿密なコミュニケーションのもと制作が進められていたことからも、スタッフの作品への深い理解と愛情が随所に感じられた。

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