『悪い夏』は『あんぱん』前に観るべき一作 北村匠海ら“主役級”の演技者たちによる狂宴

さて、『悪い夏』の主要な登場人物は全部で8人である。ここで一人ひとりのキャラクターに言及することまではしないが、豊富な経験、高度な技術、強い個性を持った“全員主役級”の演技者たちが、それぞれ異なるタイプの「クズ」や「ワル」を立ち上げてみせていることだけは述べておこう。そしてそんな彼ら彼女らが本作の重要なピースの一つひとつとして機能し、“劇薬エンターテインメント”ともいえるハードコアな群像劇を、狂宴を繰り広げている。いや、誰かの言動が作品全体にまで影響を及ぼすのだから、一人ひとりのキャラクターは「ピース」ではなく「歯車」だといえるかもしれない。そうして互いに関係し合い、影響し合い、ひとつの社会を作り上げている。もしも歯車のどれかひとつが誤作動を起こしたらどうなるか。破綻へと向かっていくのは言わずもがなである。

本作は「クズとワルしか出てこない!」と銘打っているが、社会的に「クズ」や「ワル」に分類されてしまう存在に、ならざるを得ない者もいる。他者の弱みにつけ込む者、立場の弱い人間からさらに掠め取ろうとする者、現状に行き詰まった人間から搾り取ろうとする者など、安心してスクリーンを見上げる私たちの現実社会にも存在する。事実、貧困ビジネスによる被害はあとを経たない。システムがほとんど崩壊し、「クズ」が「ワル」を呼び、「ワル」が「クズ」を呼ぶこの社会において、『悪い夏』は私たち観客に強く訴えかけてくる。「これはあなたたちと同じ(クズとワルしか出てこない)人間のお話なんですよ」と。主演の北村匠海をはじめとする“全員主役級”の演技者たちは、ときにこれをダイナミックに、またあるときにはスタティックに、体現してみせている。登場人物たちのあの“目”は、私の目であり、あなたの目なのかもしれない……。
■公開情報
『悪い夏』
全国公開中
出演:北村匠海、河合優実、伊藤万理華、毎熊克哉、箭内夢菜、竹原ピストル、木南晴夏、窪田正孝
監督:城定秀夫
脚本:向井康介
原作:染井為人『悪い夏』(角川文庫/KADOKAWA 刊)
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
製作:クロックワークス/KADOKAWA/C&I エンタテインメント
配給:クロックワークス
©2025 映画「悪い夏」製作委員会
公式サイト:waruinatsumovie.com
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