『Ave Mujica』“史上最狂のバンドアニメ”はどこへ向かうのか 衝撃の展開を一気に振り返る

『Ave Mujica』の衝撃展開を一気に振り返る

「三角初華」という発明

 バンドアニメをジャンル的に条件づける3つのイデオロギー(作家主義・商業主義・日常主義)からの脱却。Ave Mujicaが行き着く先は、いよいよまったく想像がつかない。

 そしてこの期に及んでさらなる混乱要素を持ち込むのが、#10以降の三角初華である。

 しばしば祥子への異常な執着(祥子のDMを何度も読み返す、やたらと自宅に招きたがる、廃棄扱いになった祥子のステージ衣装を(たぶん勝手に)持ち帰って添い寝する)を見せてきた初華だが、その理由は#11で語られる。ひとことで言えば初華と祥子は血縁者であったため、初華の異常性がより際立つことになるだろう。

【アニメ切り抜き】さきちゃん…… 

 それ以前に#9で初華は、燈や睦への嫉妬心から「私からさきちゃんとらないで!!!」と激昂。なんと睦を階段から突き落としてしまうのだった。これはあくまでも「つい思い浮かべてしまった脳内の出来事」として片付けられたが、映像作品においては「映し出された映像は視聴者にとって事実である」という構造を逆手に取って、初華の潜在的な暴力性を示した。

 これは『BanG Dream!』が全年齢対象のプロジェクトであるゆえの配慮だと思われるが、この「配慮」がかえって初華の不気味さを際立たせている。暴力を直接描かない「配慮」によって、「暴力の可能性」だけがずっと残り続けてしまうからだ。暴力の可能性を抱き続けたまま、ステージ上では完璧な偶像に徹することのできる初華の凄みは、商品の対象年齢という制約から溢れでた余剰によって支えられるだろう。

 こうした制約を設けることでのクリエイティビティの深化は、「声優バンド」という枠組みを設けることで独創性を追求してきた『BanG Dream!』自体のコンセプトと似ている。作家主義と商業主義は二者択一のものではなく、商品としての制約があるからこそ際立つものがあるということを、本作は示しているだろう。

 もう一つの重要な事実として、#11では初華の本名が初音であることが明かされた。実は祥子と知り合っていたのは初音の「妹の」初華で、初音は祥子に近づくためにずっと、自分とそっくりな“初華”のふりをしつづけていたのだった。

 結果、ED映像で表示されるキャストクレジットがある種の叙述トリックと化す。つまり佐々木李子の役は「三角初華」ではなく実際には「三角初華のふりをした三角初音」だったわけだが、「佐々木李子が三角初華の演技をしている」こと自体はまぎれもない事実である(のでキャストクレジットが嘘をついているわけではない)というトリックだ。

 そして「三角初華の演技をしている」という点で、佐々木は作中の登場人物(=初音)と「まったく同じ」行動をしている。これは「現実」と「仮想」の架橋を試みる『BanG Dream!』プロジェクトの中でも極めて独創的な2.5次元的演出と言えるだろう。

“史上最狂のバンドアニメ”はどこへ向かうのか

 さて、初華は第12話以降でいったい何をするのだろうか。本作のスピードであればもはや何が起きてもおかしくはない。

複雑性の一面を人は運命と呼ぶ(Ether/Ave Mujica)

 複雑に絡まり合った歯車は、単に隣の歯車を駆動させる。やがて全体の複雑性は制御不能になる。歯車が歯車を、絶望が絶望を欲望するように、ひとたび投じられた賽が引き起こした連鎖反応はいま、終着点に近付きつつある。

参考
※1. 「『BanG Dream! Ave Mujica』クライマックス直前特集」(『Megami MAGAZINE(メガミマガジン)2025年4月号』(学研)
※2. 『TVアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」official guidebook FOOTPRINTS』(ブシロードワークス)p.87
※3. サンジゲン 松浦裕暁が語る、CGアニメの現在地 『MyGO!!!!!』の“ハイブリッド”な魅力(https://realsound.jp/movie/2024/10/post-1814313.html

■放送情報
『BanG Dream! Ave Mujica』
TOKYO MXほかにて、毎週木曜23:00~23:30放送
各配信プラットフォームにて配信
出演:佐々木李子(ドロリス/三角初華役)、渡瀬結月(モーティス/若葉睦役)、岡田夢以(ティモリス/八幡海鈴役)、米澤茜(アモーリス/祐天寺にゃむ役)、高尾奏音(オブリビオニス/豊川祥子役)ほか
原作:ブシロード
監督:柿本広大
シリーズ構成:綾奈ゆにこ
脚本:綾奈ゆにこ、後藤みどり、小川ひとみ、和場明子、晴日たに
キャラクター原案:ひと和、植田和幸
キャラクターデザイン:信澤収、もちぷよ
アニメーションキャラクターデザイン:茶之原拓也、八森優香、Shin Joseph
CGスーパーバイザー:奥川尚弥
モデリングディレクター:武内泰久、寺林寛
リギングディレクター:矢代奈津子、柏木亨
色彩設計:北川順子、石橋名結、松下由佳
撮影監督:奥村大輔
美術監督:山根左帆、対馬里紗
美術設定:成田偉保
編集:日髙初美
音響監督:柿本広大
音楽:藤田淳平(Elements Garden)、藤間仁(Elements Garden)
音楽制作:ブシロードミュージック
アニメーションプロデューサー:松浦裕暁、保住昇汰
アニメーション制作:サンジゲン
製作:BanG Dream! Project、ブシロード、TOKYO MX、グッドスマイルカンパニー、ホリプロインターナショナル、ウルトラスーパーピクチャーズ
©BanG Dream! Project
公式サイト:https://anime.bang-dream.com/avemujica/
公式X(旧Twitter):https://x.com/bang_dream_info

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